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君と僕とあの夏の日と

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scene:1

「どーしよっかなぁ・・・」

理桜はひとり、誰も居なくなった教室でぼんやりと窓の外を見ては溜息を吐いた。
そっと右手を顔の輪郭に沿わせると、真新しい包帯の感触。
数時間前から右目を覆うそれは、夏の気温と体温が伝わってなんだか生温い。
少々汗ばんだ包帯は事あるごとに違和感を感じさせて先刻から気になって仕方がなかった。
切れかけの麻酔で疼き出す痛みが余計に暑さを助長させる。
無傷の左目だけを動かして辺りを確認するも、
慣れない片目だけの視界に遠近感が狂って思わず目を閉じたくなってしまう。

「大会、このままじゃ危ないよなぁ」

今から数時間程前。

階段から落ちそうになった同学年の女子を助けようとして手を伸ばしたものの運悪く自分は下敷きになり、
彼女が運んでいた実験用のガラス製ビーカーの破片が右目に直撃した。
幸い眼球には傷が付かなかったものの、破片は右瞼を深く切り刻み出血量が半端なかった為、
一時辺りは騒然となってしまった。
右目を押さえたまま呆然と座り込んでいた理桜は、駆けつけた保険医に手を引かれ保健室へと連れてこられたものの、
傷が深すぎて完全な処置が出来ず、とりあえず応急処置だけ施して近くの大学病院へと行くはめになった。
そこで右瞼の縫合処置をしてもらったのだが、担当医師は抜糸までの日数を3週間程と理桜に告げた。
本来なら2週間もかからずに抜糸が出来るそうなのだが、真夏という季節のせいもあってか、
他の季節よりも治りが遅いらしい。
抜糸まで消毒に毎日来るかと言われたが断った。
それなら絶対に朝夕塗るのを忘れないように、と化膿止めを10本も渡されて学校に戻ったのがつい30分程前のこと。

「3週間後なんだよなぁ、大会」

高校に入ってから理桜が所属したのは男子バレーボール部。
前々から運動神経の良さで評判だった理桜は、入学と同時にひっきりなしに運動部の勧誘が教室前に並ぶほど
引く手あまたの状態だったのだが、バスケかサッカーだろうという大方の予想を裏切って
バレーボール部に入部することにした。
特に理由があった訳ではないのだが、バスケ部を見に行った隣で練習していたバレー部の部員が、
軽々とステップを踏んで鋭角のスパイクを次々に決めるのを目にし、自分もあんな風に飛んで打ってみたい、
そう思ったのがきっかけだった。
作品名:君と僕とあの夏の日と 作家名:テトラ