さとうくん
ぼくがさとうくんとであったのは、夏休みのはじめ、パパといったペットショップでだった。
さとうくんは、ほっぺたをふくらまして、ぎょろっとした目でぼくの方を見た。
なんだか怒っているみたいな目つきで、視線を感じたときどきっとしたけど、目があった瞬間、さとうくんはにこっと笑ったような気がした。
しばらくの間、ぼくの目はさとうくんにくぎづけになった。
「さとし。どうした?」
さとうくんの前から動かないぼくに、パパが声をかけた。
パパもさとうくんをみて、ちょっとびっくりしたみたいだけど、ぼくがさとうくんと友だちになりたいと言ったら、パパは笑いながら「いいよ」といってくれた。
こうしてさとうくんはぼくんちにやってきたんだ。
「いじめっこみたい……」
さとうくんを初めて見たママの感想だ。それからママはさとうくんをじろじろながめてぼくに聞いた。
「なんていうの?」
「東錦っていうんだ」
「ふうん、佐藤錦ねえ」
ママってば、さくらんぼとまちがえてる。「ちがうよ。東錦だってば。あ・ず・ま・に・し・き!」
それでもママは何度も間違える。そのたびに言い直すのがめんどくさいので、『さとうくん』とよぶことにしたんだ。
東錦というのは、三色出目金とオランダ獅子頭を交配させて生まれた、わりと新しい品種の金魚。
そう、さとうくんは金魚なんだ。
白い体に赤と黒のまだらもようで、見た目はあまりきれいじゃないし、ぼこぼこした頭から見えるぎょろっとした目つきも、ちょっとこわい。
でも、さとうくんは見かけとは全然ちがっておとなしい。
体が大きいので、最初はほかの金魚をいじめるんじゃないかと心配したけど、かえって遠慮しているみたいだ。
長いこと池で飼育されていたせいか、水槽の水流に慣れていないのでうまく泳げない。それで、いつも隅っこの水草に隠れるようにしている。
えさを食べるときだけ、一生懸命尾びれを小刻みにゆすって、不器用に泳いでくるんだ。
ほかの金魚たちは優雅にすいーすいーって泳ぐけど、さとうくんだけは、ちょこちょこと尾びれを揺すって、半分逆立ちしたような格好で泳いでいる。
たぶん、おなかが大きいのでバランスがうまくとれないんだと思う。
そんなさとうくんにひかれたのは、ぼくも泳ぎが苦手だからだ。
さとうくんは、ほっぺたをふくらまして、ぎょろっとした目でぼくの方を見た。
なんだか怒っているみたいな目つきで、視線を感じたときどきっとしたけど、目があった瞬間、さとうくんはにこっと笑ったような気がした。
しばらくの間、ぼくの目はさとうくんにくぎづけになった。
「さとし。どうした?」
さとうくんの前から動かないぼくに、パパが声をかけた。
パパもさとうくんをみて、ちょっとびっくりしたみたいだけど、ぼくがさとうくんと友だちになりたいと言ったら、パパは笑いながら「いいよ」といってくれた。
こうしてさとうくんはぼくんちにやってきたんだ。
「いじめっこみたい……」
さとうくんを初めて見たママの感想だ。それからママはさとうくんをじろじろながめてぼくに聞いた。
「なんていうの?」
「東錦っていうんだ」
「ふうん、佐藤錦ねえ」
ママってば、さくらんぼとまちがえてる。「ちがうよ。東錦だってば。あ・ず・ま・に・し・き!」
それでもママは何度も間違える。そのたびに言い直すのがめんどくさいので、『さとうくん』とよぶことにしたんだ。
東錦というのは、三色出目金とオランダ獅子頭を交配させて生まれた、わりと新しい品種の金魚。
そう、さとうくんは金魚なんだ。
白い体に赤と黒のまだらもようで、見た目はあまりきれいじゃないし、ぼこぼこした頭から見えるぎょろっとした目つきも、ちょっとこわい。
でも、さとうくんは見かけとは全然ちがっておとなしい。
体が大きいので、最初はほかの金魚をいじめるんじゃないかと心配したけど、かえって遠慮しているみたいだ。
長いこと池で飼育されていたせいか、水槽の水流に慣れていないのでうまく泳げない。それで、いつも隅っこの水草に隠れるようにしている。
えさを食べるときだけ、一生懸命尾びれを小刻みにゆすって、不器用に泳いでくるんだ。
ほかの金魚たちは優雅にすいーすいーって泳ぐけど、さとうくんだけは、ちょこちょこと尾びれを揺すって、半分逆立ちしたような格好で泳いでいる。
たぶん、おなかが大きいのでバランスがうまくとれないんだと思う。
そんなさとうくんにひかれたのは、ぼくも泳ぎが苦手だからだ。