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circulation【番外-バレンタインのお話】

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「それは好きだよ、仲間としてね」
私の答えと、スカイの答えは同じだった。
「えぇー、そうなの……?」
対するフォルテはあからさまに不満そうである。
「どうしてそんなにガッカリしてるのよ」
「だって、お似合いだなぁって思うのにー……」
「それなら、私とフォルテだってお似合いでしょ?」
そう言って、お日様を沢山浴びてふかふかになっているプラチナブロンドを引き寄せる。
きっと、私のマントもぽかぽかになっているのだろう、フォルテも気持ち良さそうに寄りかかってきた。
「うーん、そっかぁ」
納得してくれたのか、フォルテは私の膝の上で満足そうに目を細めた。
紙袋に目をやる。まだ紙袋を置いたところは日陰になっていた。
直射日光にさらされているクマのチョコは、そろそろ家の中に連れ帰ってあげる方がいいかもしれない。
足音に振り返ると、デュナが来ていた。
「サティが来てるみたいだけど、どうかしたの?」
さっきのふわふわ頭の羊みたいな女の子はサティと言う名前なのか。と思いつつ答える。
「バレンタインですから」
「ああー」
ついさっき、バレンタインにかこつけて、弟にチョコまがいの物体を食べさせたとは思えないような反応が返ってきた。
「あの子の家は輸入雑貨屋さんだから、もしかしたらとっても高級なチョコかもしれないのに、残念だわ」
デュナの言葉にフォルテが首を傾げる。
「スカイが、断るって事?」
「あれは断るって事が苦手だからそれはないと思うけど、貰えないと思うわね。多分。」
「?」
私も首を傾げてしまう。
「ええと……私が七年のときだから、スカイは四年生のときね」
デュナが頭をかきながら私達の隣に座った。
四年生というと十歳……。丁度私がこの家に預けられた歳だ。
まあ、預けられたときには、バレンタインの時期は過ぎていたが。
「スカイの周りの女の子達もそろそろ色気づいてきた子がいたのか、ちょっとトラブルになってね」
デュナがこちらを振り返って言う。
フォルテもよいしょと身を起して聞いていた。
「ほら、あれは断るってのができないから、くれるもの全部貰っちゃうでしょ」
私とフォルテが大きく頷いた。
「それで、今度からそういう時には、貰う前に一言付けなさいって教え込んだのよ」
なんだか今一瞬、十歳のスカイに相当な圧力を持って物を教え込む十三歳のデュナが目に浮かんだ。
「\\\"貰うだけでいいなら\\\"ってね。」
「ほぇー」
フォルテが、ほーとへーの混ざったような声を上げている。
つまり、よくわからないけれど納得したような気がしているという状態だ。
「そんなことよりっ」
デュナのメガネが太陽を浴びてなお、怪しく輝いた。
どうしてこんなぽかぽかのお日様を浴びて、そんなに不穏にメガネを輝かせることが出来るのか。
これは、一つの才能なんだろう。きっと。
「さっきのチョコらしいものに改良を施してきたのよっ! これで、今度は瞬間的に発火するわっ!!」
チョコらしいもの。とハッキリ言ってしまうのはどうかとも思うが。
今さらチョコだと言われたところで、もう誰も信じないだろう。
「またスカイで試すの?」
と問うフォルテにズイッと迫ると、デュナは真剣に言った。
「だって、火が出るのよ? フォルテこんなの食べたいと思う?」
「た……食べたくない……」
当然の答えを聞いて、デュナは満足気に胸をそらした。
「でしょう? 私も絶対食べたくないわ。というよりこんなもの口にするなんて人間じゃないわね!!」
どちらかというと、そんなものを実の弟に食べさせる方が、人間としてどうだろうと思ったが、これは口に出してはいけない事なんだと判断する。

タイミングよく(?)スカイが戻ってきた。
その手には、デュナが言ったとおり、何も握られていない。
「チョコは?」
一応といった雰囲気でデュナが聞いている。よほど高級チョコが食べたかったのか……。
「貰えなかった」
肩をすくめて答えるスカイ。
正確に言うならば、貰えなかったのではなく、彼女が、渡そうにも渡せなかったのだ。
なんとなく、そのふわふわ頭の少女が不憫に思える。

「それじゃあ、チョコが貰えなかった可哀想な弟に優しい私がチョコっぽいものをあげるわ。さあ、食べなさい」
仮にもチョコのような物体だと主張されていた物は、もうデュナの中で、チョコっぽい程度にしかチョコらしさをとどめていなかった。
「うわ。もう改良してきたのかよ……」
スカイがこちらに向けていた歩を止める。
「当たり前でしょう? この私を誰だと思ってるの?」
「誰って言われても……」
じりじりと差し出される試験管に、スカイがまたじりじりと距離を取っている。
「あら? そんな態度をとってよかったのかしら?」
デュナが片手でゆっくりとメガネを押さえる。
それだけの行為で、これだけの威圧感を生み出せる人もそうそういないんじゃないかなと思いつつ、私はチョコが火に溶かされないように、紙袋とクマを抱えて一度家に戻ることにした。
「フォルテもおいで」
「うんっ」
プラチナブロンドをなびかせて、パタパタと小走りについてくるフォルテを見つめながら、来年のバレンタインも、こんな風に四人で過ごせますようにと、誰にともなく祈った。