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HARP

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「...伴奏だけど。グノーの、アヴェ・マリアだよ。」
その人はそっけなく答えた。
なんとなく、顔が迷惑そうだった。
だが七瀬は答えてくれたことがうれしくて
その人の顔色を窺わずに
「そうなんですか、それじゃあ、もう一回聴かせてください!!」
と言って、その人の隣にちょこんと座った。
「えっ、いや、その、ちょっと....」
戸惑う彼。
でも七瀬の期待を膨らませた顔を見たら、あきらめた様に楽器を構える。

 「......一回だけだから」
その言葉で始まった、アヴェ・マリア。
伴奏だけど、それだけでも十分いいと七瀬は思った。
弾いている姿を見ると
まるで神様にお祈りしながら弾いているようにみえた。
七瀬はふと、だれかを亡くしてしまったのだろうかと思った。



「すっごくよかったです!!」
演奏が終わった後、七瀬は拍手をしながら立ち上がった。
彼は照れたように頭をかいた。
そして楽器を片づけ始めた。
この人と出会ったの、絶対運命だと思う。
七瀬はそう思った。
今一歩踏み出さなければいけないと感じた。
「あのっ」
七瀬の声に彼は手を止め
「なんですか」
とやはりそっけなく、返した。
「よかったら名前...教えてくれませんか?」
聞かれて彼は、ぼそっと呟いた。
「.......り」
「え?」
七瀬は聞き取れなくて、聞き返した。
「九条 聖」
「ひじり?」
「うん」
聖は照れながらうなずいた。

「私、聖さんのファンになっちゃったんです、またここで聴かせてください!」
これで嫌だと答えられたら多分、泣いていたと思う。
「まあ、別にいいですけど」
期待どおり、聖は答えてくれた。
「ありがとうございますっ」

 そう言って七瀬は逃げるように丘をおりていった。
胸がドキドキしている。
顔が火照っているのがわかる。
初めての感覚。

私は聖に、今まで抱いたことのない感情を覚えた。
くすぐったくて...
また逢いたいと思う.....

これは恋なのだろうか。
作品名:HARP 作家名:森下魅好