幸福な闇
僕と、僕の大切なものと、僕の世界のすべてがそこにあった。
妻は僕の手を握って涙ぐんでいた。子供も悲しげな表情で僕を見ていた。
「本当に幸せだった」妻の涙が頬を伝って流れ落ちた。
「元気でやれよ」と僕は声にならない言葉を、妻と子供に投げかけた。
焦点が定まらなくなりボンヤリとした光の強弱だけが感じられた。
幸せな記憶をいくつも思い出した。
そして、いま、気がついた。僕は幸せだった。
(うん、悪くない人生だった)。
色とりどりの光が周囲を乱舞し、どこからか流れ込んでくる風が優しく僕を包み込む。
(ありがとう…)。
誰に言うでもなく呟いた。
(ありがとう)
もう一度呟く。
僕は世界のありとあらゆるものに感謝の言葉を告げた。
そして、僕の中の世界が深い闇に包まれた。
幸福を感じさせる「終わりのない闇」だった。