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画家ならざれば狂人となりて

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その一 叔父、原田茂



誰も知らない無名の画家、それが私の叔父である原田茂だ。
彼の一生は41年で終わってしまった。

そして、画家として彼が世に残した作品…それは1点もない。
いや、もしかすると実家の倉庫のどこかに1つ2つ…本の間かどこかに挟まったままで残っているかも知れないが、それは作品と呼べるかどうか分からない。

私が小学生の1年のとき、叔父に描いてもらった私自身の絵がそれだった。

新聞に挟まれていたチラシ広告の裏に、叔父が楽しそうにクレヨンで描いたもの。

当時の私にはその絵が、私に似てはいても違う自分に思えたし、その独特の色使いに異様なものを感じて、背筋をゾクゾクさせた思いがある。

そんなことがあったからだろうか…私がエゴン・シーレを敬愛するのは。

シーレのその油彩のタッチと色使いは、当時よく描いてくれた叔父の絵に似ている。
更にモチーフのデフォルメに至っても、やはりシーレと同じようであり、その時に描いてくれた私はとても痩せていた。

本当は健康優良児ほど、まるまると太っていた頃だったというのに。

叔父には姉妹が4人いた。
そのうちの一人が私の母であり、母は姉妹の中でも一番気性が激しい。

それでも母は、叔父のすぐ上の姉ということもあってか、比較的よく叔父の面倒を見ていたらしい。
だからだろうか、誰のいうことも利かない叔父も、母にだけは逆らったりしない。

そんなことから叔父がある事件で、九州から祖父祖母のとこへと引き上げて来てからも、いつも母が叔父の心配をしていた。

九州から引き上げて来た叔父は、仕事もしないで酒を飲んでは暴れていたが、いったように、ただ一人母のいうことだけは良くきいた。

それにキズだらけの顔や腕など、見た目はかなり厳つかったが、私や弟にはとても優しくて、子どものように無邪気で絵の上手なおじさんだったのである。