小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

グラスバニー外伝 〜幾年(いく

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

もう訳の分からないまま、グラスバニーは、ふと、窓の外の風景に目をやっりました。
そして空を見上げると、お日さまの周りを取り巻いている大きな虹を見つけたのです。

「私この曲、よーく知ってる。それにこの、にじいろ・・・。」

グラスバニーはぽつり呟き、手に持っていた虹色のシッポを見ました。

「ああ、あなただったのね。マッドタスク・・・。」

グラスバニーがそう声を漏らしたときです。

「私ひとり、我慢すればすべては上手くいく・・・。」
「キミはいつもそう言っては、自分自身を不幸の真っただ中に置いて我慢ばかりしていたね。」

「そして今、やっとキミ自身の足でそんな不条理から抜けだして来た。」
「だからこそ、こうして今ここにキミがある。」

「おかえり。クリスタルバニー。」

部屋の奥から、そんなことを言いながら誰かが出て来ました。

「ニジイロ、ト、カ、ゲ・・・?」

“クリスタルバニー”そう呼ばれたグラスバニーが呟きました。

「そうだよ、ボクだよ。」

「長い間ボクは、ここでキミが来るのを待っていた。」
「昔キミがみんなにいじめられて、ここにやって来たあのときから。」

「ボクはキミを忘れることなく、こうしていつまでもいつまでも待っていた。」
「キミの残したこの、大切なシッポと一緒に。」

全てを思い出したグラスバニーの目からは、ひと粒の大きな涙が溢れたのでした。

「会いたかったよクリスタルバニー。」
そういって、ニジイロトカゲはグラスバニーを抱きしめました。

「クリスタルバニー?」
グラスバニーは聞き返しました。

「そうだよ、今の自分の姿をよく見てごらん。水晶になって輝いているだろう?」

グラスバニーはそう言われて、改めて自分の姿を見てみました。

つい先ほど顔を洗った時には、あちこちが無惨にヒビ割れていたガラスのカラダでした。
それが今は、キラキラと眩しく輝く水晶のカラダになっていたのです。

「マッドタスク…。いまキミがそう呼んで、あの時の約束を思いだしてくれたから。」

「あれから幾年の時を超え、今やっと、キミの心を抱きしめることができたんだ。」
「キミがクリスタルバニーに生まれ変わるこの時のために、ボクはいた。」

部屋にはいつのまにか、KiKi Elsenの「KISS ME AGAIN」が流れています。

「この曲・・・マッドタスクとの曲。」
「そうだよ、二人ではじめて過ごした夜。そしてその時はじめて重ねた唇。」

「クリスタルバニー、あの時のようにキミのくちづけをボクにおくれ。」
「そして街へ帰ろう。二人が暮らすべき街…光の街へ。」

「うん。」
「私、この時を求めて、ずっとずっと生きてきたのね。」

グラスバニーはそういうと、あの時のようにそっと、彼の腰に腕を回して唇を重ねたのでした。
“グラスバニー”、いや、今ではクリスタルバニーと呼ぶべき女性は、もう涙を見せることはありませんでした。

そうです。
彼女の涙が探していた大切な探し物が、今、やっと見つかったのですから。

そしてふたりが宿から出ると、空にはグラスバニーだった時に見ていた虹が、ずっと掛かったままでした。

「虹。とてもきれいね。」
「そうかい? ボクはこれまでだって、いつもキミのために虹をかけていたんだよ。」

「それじゃ行こうか。」
そう言ってニジイロトカゲは、クリスタルバニーの手をしっかりと握りました。

「うん。長い間待たせてしまって、ごめんね。」

「いいんだよ、それも今日で終わる。これからはいつも一緒だ…光の街で。」

二人は心地よい風と共に、森の奥へと歩いていきます。

それと同時に、今までふたりがいた宿屋も姿を隠します。
そしてその宿があった場所には、森の生き物たちが“マッドタスク”と呼んで恐れていた、泥の沼だけがありました。