グラスバニー外伝 〜幾年(いく
「トン、トン、もう起きたかね?」
「は、はい。どうぞ。」
宿屋のご主人のようです。
眠気まなこのままで、グラスバニーは返事をしました。
「おはようお嬢ちゃん。昨夜はぐっすりと眠れたようだね。」
「さて、お風呂の仕度も出来ているし、食事の用意もできているよ。」
「あの・・・どうして私にここまで?」
グラスバニーはそう言って、ベットからカラダを持ち上げました。
少し・・・
強い陽射しが窓を通して入って来ます。
「何か不服かね?」
「え・・・ううん、そんなことはないのだけれど。」
グラスバニーはそう答えて、床に足をおろしました。
「それにしても今日はいいお天気だ。」
「これならもう、道に迷うこともないだろう。」
グラスバニーの怪訝そうな顔を見ても、いっこうに気にした様子もなく宿屋のご主人はいいました。
グラスバニーは柱にかかった時計を見て言いました。
「あら、もうこんな時間なのね。大変。」
大急ぎで着替えを済まし、顔を洗ってお化粧をしようとしましたが、昨夜からお風呂がまだです。
顔を洗いはしたものの、少し泥が残っているようだしカラダもまだ泥まみれのまま。
「せめて、残っているこの身体くらいは綺麗にしておきたい。」
あれほどいつも、お風呂のことを気にしていたグラスバニーだったはずですが、
今は・・・。
「お風呂にお食事・・・どちらにしてもゆっくりしてられない。」
グラスバニー自身、その変わりように気づいていない様子でした。
そう、あれほどにクリスが直してくれた大切なカラダだからと思って、毎日キレイにしていた自分のカラダだったはずなのに・・・。
ここで眠ったことで、あきらかにグラスバニーに変化が起きていたのです。
「何だか・・・、もう少しで思い出せそうなのだけど・・・。」
そういうとグラスバニーは、ポケットから虹色のシッポを取り出して眺めていました。
「お嬢ちゃん、まだかな?」
「は、はい。今いきます。」
そう返事をしてグラスバニーは食卓へと足を運びました。
「あの・・・、お風呂を先にいただこうと思うのですけど・・・。」
グラスバニーはそういいながら、ふとテーブルに目を移すと、そこには無くしたはずの自分のシッポが置いてありました。
「これ! おじさん、このシッポ・・・私のです。」
「いったいどこで!?」
グラスバニーはびっくりして叫びました。
「ああ、知ってるよ。」
「お嬢ちゃんのシッポだということ、よーく知ってる。」
「それにしても、あの時とまったく同じだな・・・はははは。」
宿屋のご主人は笑いながら、平然な顔をして言いました。
「お嬢ちゃんは本当に、まるで覚えていないのかい?」
「ずっとずーっと・・・それはずっと昔に、焼き物のトラと一緒にこの森にやってきただろ?」
「そして、この先の沼に入いった。」
そこまで聞いて、またしてもグラスバニーは驚きました。
そうです。
それは昨夜グラスバニーが見た夢そのままのことを、宿屋のご主人は話しているのです。
「どうして? どうして昨夜見た私の夢の事をご存じなの?」
「いったいおじさんは?」
宿屋のご主人は何も答えず、ただ・・・
「それじゃ、少しここで待っていなさい。」
そう言って、部屋の奥へと姿を隠してしまったのです。
グラスバニーには何がなんだかわかりません。そこでとりあえず、大きく深呼吸をしました。
部屋の奥からは、何か聞き覚えのある歌が流れてきます。
“どこに愛があるか 教えてあげない 今はふたりきりでしょう 遊ぼう…”それは下田逸郎の“遊ぼう”でした。
「は、はい。どうぞ。」
宿屋のご主人のようです。
眠気まなこのままで、グラスバニーは返事をしました。
「おはようお嬢ちゃん。昨夜はぐっすりと眠れたようだね。」
「さて、お風呂の仕度も出来ているし、食事の用意もできているよ。」
「あの・・・どうして私にここまで?」
グラスバニーはそう言って、ベットからカラダを持ち上げました。
少し・・・
強い陽射しが窓を通して入って来ます。
「何か不服かね?」
「え・・・ううん、そんなことはないのだけれど。」
グラスバニーはそう答えて、床に足をおろしました。
「それにしても今日はいいお天気だ。」
「これならもう、道に迷うこともないだろう。」
グラスバニーの怪訝そうな顔を見ても、いっこうに気にした様子もなく宿屋のご主人はいいました。
グラスバニーは柱にかかった時計を見て言いました。
「あら、もうこんな時間なのね。大変。」
大急ぎで着替えを済まし、顔を洗ってお化粧をしようとしましたが、昨夜からお風呂がまだです。
顔を洗いはしたものの、少し泥が残っているようだしカラダもまだ泥まみれのまま。
「せめて、残っているこの身体くらいは綺麗にしておきたい。」
あれほどいつも、お風呂のことを気にしていたグラスバニーだったはずですが、
今は・・・。
「お風呂にお食事・・・どちらにしてもゆっくりしてられない。」
グラスバニー自身、その変わりように気づいていない様子でした。
そう、あれほどにクリスが直してくれた大切なカラダだからと思って、毎日キレイにしていた自分のカラダだったはずなのに・・・。
ここで眠ったことで、あきらかにグラスバニーに変化が起きていたのです。
「何だか・・・、もう少しで思い出せそうなのだけど・・・。」
そういうとグラスバニーは、ポケットから虹色のシッポを取り出して眺めていました。
「お嬢ちゃん、まだかな?」
「は、はい。今いきます。」
そう返事をしてグラスバニーは食卓へと足を運びました。
「あの・・・、お風呂を先にいただこうと思うのですけど・・・。」
グラスバニーはそういいながら、ふとテーブルに目を移すと、そこには無くしたはずの自分のシッポが置いてありました。
「これ! おじさん、このシッポ・・・私のです。」
「いったいどこで!?」
グラスバニーはびっくりして叫びました。
「ああ、知ってるよ。」
「お嬢ちゃんのシッポだということ、よーく知ってる。」
「それにしても、あの時とまったく同じだな・・・はははは。」
宿屋のご主人は笑いながら、平然な顔をして言いました。
「お嬢ちゃんは本当に、まるで覚えていないのかい?」
「ずっとずーっと・・・それはずっと昔に、焼き物のトラと一緒にこの森にやってきただろ?」
「そして、この先の沼に入いった。」
そこまで聞いて、またしてもグラスバニーは驚きました。
そうです。
それは昨夜グラスバニーが見た夢そのままのことを、宿屋のご主人は話しているのです。
「どうして? どうして昨夜見た私の夢の事をご存じなの?」
「いったいおじさんは?」
宿屋のご主人は何も答えず、ただ・・・
「それじゃ、少しここで待っていなさい。」
そう言って、部屋の奥へと姿を隠してしまったのです。
グラスバニーには何がなんだかわかりません。そこでとりあえず、大きく深呼吸をしました。
部屋の奥からは、何か聞き覚えのある歌が流れてきます。
“どこに愛があるか 教えてあげない 今はふたりきりでしょう 遊ぼう…”それは下田逸郎の“遊ぼう”でした。
作品名:グラスバニー外伝 〜幾年(いく 作家名:天野久遠