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城塞都市/翅都 fragments

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like a drawn blade




 大多数の人にとって「住みやすい街」と言うものは、治安がしっかりしていて、角を曲がった途端にぶつかった機嫌の悪い誰かさんにいきなり頭を吹き飛ばされないでもすむような、そんな街のことだと思う。いつかそんな所に住むのも良い。尤も、そんな街では私の商売が成り立たないが。

 退廃的。享楽的。猥雑で傲慢で無責任。あまり耳触りのよろしくないそれらの言葉を、私は今までこよなく愛してきた。それが自分の人生を楽しく生きるコツだと信じていたからだ。実際そのことに間違いはなかった。街角の道端にどす黒く広がる血の染みを見下ろしている、今この瞬間も。

 先日ここで人が死んだ。死んだのは男で、殺したのは少年で、その少年に四十五口径の拳銃と六発の弾丸を売ったのは私だった。肩書ではなく商売している以上、私はそれ以外に自分を現す言葉を知らない。私は武器商人だ。すでに客である筈のその少年の顔すら、もう思い出せないけれど。

 確実に殺せる武器が良い。小口径だと不安だからなるべく大きな奴を。それが少年の注文だった。口径が大きいと反動も大きいしお客さんぐらいの体格だと肩が外れるかもしれないからやめておけば?と私は親切に忠告してあげたのだが、少年は聞かなかった。大丈夫だから、と言って。

 実際その言葉に嘘はなかった。結果を見れば明らかだ。死んだ男は至近距離から胴体に三発喰らっていたと聞いたから、極限まで何気ない振りをして近付いて、いきなりブッ放したのだろう。悪くない。余りに身を捨て過ぎているけれど、あの少年にはそれしか術がなかったのだろうから。

 か弱い人間が噛みつくように抗う様を見るのが好きだ。這いずるような生きざまを、身を削るような戦い方を、その人生の行きつく先を見つめるのが好きだ。それは私の肩書によるものに他ならず、自分の手が誰かの運命をあっさりと変えてしまう物を商っている事に静かな興奮を覚える。

 けれどそれを快楽と思えるほどに、私はまだこの世界に愛想を尽かしてはいないので。変遷する運命の中に、抗うことのできぬ流れがあることを期待してしまう。いつかこの矮小な信条を叩きつぶす強大な何かが目の前に現れてくれるのではないかと、その存在をどこかで強く願っている。

 周りに言えば失笑を買うだろう望みに祈りの言葉で蓋をして、見上げる空に目の眩むような太陽の光を見る。結局あの少年は男を殺した後にその取り巻きに殺されたと聞いた。言う事は何もない。踵を返して街角を後にする。私は天国を信じないから。人が死んだ後に行く場所など知らない。


20100616