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鳥の如く

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久坂が眼をさました。
「あ、寺島」
「手紙は届けました」
聞きたいだろうことを、寺島は先回りして答える。
今はもう夜だ。
雨もやんでいる。
「そう、良かった」
久坂は身体を起こした。
「ありがとう」
「まだ寝ていたほうがいいのでは」
「いや、身体はかなり楽になったよ」
それは表情を見ればわかる。
「ですが」
「それに、いい夢を見たんだ」
ほがらかに久坂は告げた。
「夢、ですか」
「うん。昔、詩作の旅に出かけた場所の夢で、僕は鳥になってその景色の中を飛んでいた」
夢の内容を思い出したせいか、久坂は笑った。
いつもとは少し違う笑みだ。
ひとの眼を惹きつける華やかさがあるのは同じだ。
しかし、いつもと違い、まるで子供のような笑顔だ。
「鳥になって飛んでいるうちに、言葉が胸からわきでてきて、夢中で詩を作っていた」
久坂はうきうきした様子で言う。
「夢からさめた今でも、その詩を覚えている」
そして、詩を口にする。
美しさを取りもどした声で、吟ずる。
鳥が高い空へと飛んでいくように、朗々と、詠う。
「……という詩なんだけど、どうかな」
しばらくして、久坂に問われた。
寺島はハッと我に返る。
聞き惚れてしまっていた。
久坂の詩吟は何度も耳にしてきたので慣れているはずであるのに、つい、うっかりしてしまった。
「……素晴らしいと思います。書き留めたいので、もう一度、お願いしてもいいでしょうか」
内容を検討したくても、声に気を取られすぎていて、はっきりとは覚えていない。
だが、そんなことは言えないので、適当な理由をつけて、再度、詩を口にしてもらうよう頼んだ。
「いいよ」
あっさりと久坂は承諾した。
寺島は書き留めるための用意をする。
それが終わると、久坂のほうを見た。
久坂は笑った。
そして、明るい表情で、ふたたび詩を吟ずる。
詩を書き留めつつ、寺島は久坂の様子を確認する。
楽しそうだ。
嬉しい気分になる。
しかし。
こちらのほうがこのひとの本来の姿なのだと思うと、かすかに胸に悲しみを感じた。








作品名:鳥の如く 作家名:hujio