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Transsexualism

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「こんな体さえなければよかったんだ!」
 耳に残っていたのは、母親の悲鳴と、自分の狂ったような叫び声。
 気がつくと、目の前には見慣れない白い天井があった。体のあちこちはひりひりと痛んだけれど、その痛みからではなく、無性に涙がこみ上げてきた。
 自分の体を自分で切り刻もうとして、病院に運ばれた。生きているのが苦痛だったのに、自分はまだ生きていた。
 涙が止まらない。泣いたところで、何かが解決するわけでもないのに。
 翌日、性同一性障害である可能性があり、それによってうつ状態になっているのだと医者から言われた。そんな病名なんて、ほしくはなかった。
 高瀬はるか。それが名前だった。
 小学生の頃は、まだ良かったと思う。男も女も区別なんてあまりなかったし、男子と遊んでいても違和感なく溶け込めていた。
 それが小学校高学年になって、変わった。自分の体が次第に変化していくことに、耐えられなくなった。
 自分の体が違うものになっていく恐怖。自分はこんなものではない。自分の体ではない。一生懸命、精一杯否定しても、訴えても、事実は変わらない。周りは認めてはくれない。「変わった子」それが、はるかに貼られたレッテルだった。頭が、おかしくなりそうだった。
 極めつけは、幼馴染の男子の一言だった。
「俺、お前のことが好きだ。付き合ってくれ」
 昔は平気で取っ組み合いをしたような仲だった。信じたくなかった。
 気がつくと叫びまわっていた。自分で自分の体を殴りつけ、すべてを否定し、切り刻んでしまおうとしていた。
 落ち着いた今でも、思い出せば、あのときの言いようのない苦しさがよみがえる。
「俺は、女なんかじゃない」
 認めてくれたのは、医者と母親だけだった。



作品名:Transsexualism 作家名:日々夜