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大人のための異文童話集1

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実は、あかずきんちゃんはおばあちゃんが狼だということを、最初から知っていたのでした。

始めて会ったときの狼は、あかずきんちゃんを食べるそぶりも見せず、本当のおばあちゃんのように優しくお話をしてくれました。
いつもひとりで寂しかったあかずきんちゃんは、そのときに狼であるおばあちゃんをとても気にいったのでした。

そうこうしているうちに、森の中にあるおばあちゃんの家に着きました。

いつもドアを開けると、昨日にでも会ったように、おばあちゃんは優しく迎えます。
そんなおばあちゃんとひととき過ごして、あかずきんちゃんがいいました。
「おばあちゃん。今日は私お願いがあるの。」
「いつだったか…ふたりで一緒に暮らしましょうと言ったけどやっぱり私は、お父さんを置いてお家を出ることなんて出来ないの。」

あかずきんちゃんは話しを続けます。

「どうしておばあちゃんのお口は大きいの?」
突然にそうあかずきんちゃんに聞かれて、おばあさんは少し戸惑っていました。
しかしおばあちゃんは何も言わず、いつものように優しくあかずきんちゃんの頭を撫でるだけでした。

あかずきんちゃんは、うっとりしながらもコトバを続けます。

「おばあちゃんの大きなお口…、その大きなお口は、私を食べてしまうためにあるんじゃないの?」
「ねぇ、おばあちゃん。お願いだから今その大きなお口で私を食べてよ。」
「私、ずっと前から分かっていたの。おばあちゃんがあの有名な人喰い狼だということ。」
「なのにいつもこうして私のことを…。」

「今まで私にとっても優しくしてくれて、みんなが言っているほど凶暴で危険な狼の姿なんて一度も見せなかった。」
「きっと私がやせっぽちで、食べても美味しくはないからだと思ってた。」
「やっぱり私…、お肉も少ないから食べたくならないのよね。」
そう言って、あかずきんちゃんはおばあちゃんの胸で泣きました。

するとおばあちゃんはやっと口を開きました。

「あかずきんや、この大きなお口はお前が喜ぶお話を、できるだけお前の傍で聞かせるためにあるんだよ。」
「そしてこの大きな耳は、楽しいお前のお話を漏らさず聞くためのもの。」
「それにこんなに私が毛深いのは、寒がりのお前を抱き締めて暖めるためのもの。」

「おまえはとても優しくて、キレイでかわいく賢い子。」
「そんなおまえを始めて目にした時に、私は心に決めたんだ。」
「この大きな口はおまえの前では、一生、決して食べるためには開けまいと。」
「でも、それほどお前が食べてくれというのなら、私は今からお前のお父さんに会ってこよう。」
「そして私の想いを伝え、おまえを私のものにしてしまおう。」
そういって、ひとりあかずきんを家に残したままに、狼は飛びだしていきました。

しかし、あかずきんちゃんがいつまで待っても、狼は戻っては来ません。