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大人のための異文童話集1

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第1話 あかずきんと狼



あかずきんちゃんには、とっても大好きなおばあちゃんがいました。
おばあちゃんには、あかずきんちゃんが知るはずのない大変な秘密がありました。
そのおばあちゃんというのは、有名な人喰い狼がバケた姿だったのでした。
本当のおばあちゃんはもう、とうの昔に、狼のお腹の中に入ってしまっていたのです。

あかずきんちゃんのお父さんは、山に入っては鉄砲を撃って、日々の生活をまかなっていました。

あかずきんちゃんもそろそろお嫁入りの年頃です。
お父さんはあかずきんちゃんがとてもかわいくて、毎日山で鉄砲を撃っている時ですら心配をします。
だからでしょう。
お父さんが猟にいく時は、いつでも家にカギをかけていきます。
そんなあかずきんちゃんが唯一、外出できそうなところといえばおばあちゃんのところだけでした。

でもおばあちゃんは、とても遠くの森に住んでいます。
だから、いつでも会うというわけにはいきません。

あかずきんちゃんがおばあちゃんのところへ行きたいときには、お父さんも快く許してくれるように、とても上手にお話をしました。
おばあちゃんに会えない時は、仲のいい小鳥たちに頼んで毎日お手紙を出します。
そしてお手紙には、おばあちゃんの大好きなあかずきんちゃんの写真も一緒に送ります。
あかずきんのことを忘れてしまわないようにと。

そんなある日のこと。
おばあちゃんに会いたくなったあかずきんちゃんは、いつものようにお父さんにお話をして、出かけることを許されました。
喜んだあかずきんちゃんは、おばあちゃんの大好きな甘いものを、たくさんカゴに詰めて出かけることにしました。

あかずきんちゃんも、もうキレイで立派なオンナです。
いつものことですが、おばあちゃんのところへ行くまでには、いろいろな男たちから声を掛けられます。
そしていつものように、何喰わぬ会話で賢く躱しては先きを急ぐのでした。


しかし、今日のあかずきんちゃんは、どこか様子が違っていました。
日頃からそれほど、頻繁には会えないおばあちゃんですが、これからはもっと会えなくなると思ったからです。

ときには優しいお父さんですが、あかずきんちゃんはお父さんがあまり好きではありませんでした。
機嫌が悪いと怒鳴りつけるし、出掛ける時は家にはカギをして、あかずきんちゃんがどこにも行かれないようにするからです。
でも、あかずきんちゃんもまた、なぜかそんなお父さんから離れられません。

最近ではそんなお父さんに、おばあちゃんのところに行くお話をするのが後ろめたくて、説得するのも何だか面倒にもなっていました。
おとうさんにも、そんなあかずきんちゃんの気持ちが伝わってるようなのです。
だから今日は意を決して、おばあちゃんのところへとやって来たのです。

あかずきんちゃんのお父さんは猟師さんです。
おばあちゃんが狼と知れば、きっと撃ち殺してしまうことでしょう。
そんなことを考えるあかずきんちゃん。