バナナ美味しいぞー!
バナナ美味しいぞー!
タケルは『良い子』になりたい気持ちの強い子です。
自分ではそんなに良い子とは思っていないのですが、大人達は勝手にタケルを良い子と言って誉めてくれるので、タケルは「自分が本当は良い子ではないのを知られたくない」・「本当の良い子になりたい」と思うようになったのです。
学校でも良い子をしているので先生は誉めてくれますが、クラスの子にはあまり人気がありません。
クラスの人気者は、わがままだけど面白いことを言うのが得意なタケシです。
タケシは塾に行く予定の子でも、平気で遊びに誘って塾を休ませたりする子です。
タケルはそういうタケシのする事はおかしいと思っています。
でもそれを言えば、クラスの子は「タケルは、タケシが人気を有るのを嫉妬している」と思うかもしれません。
プライドの高いタケルは そう思われることも嫌だが、もっと言えば 自分がそんな下らない事をいちいち思い悩む事自体が嫌なのです。
タケルはもっと超然としていたいのです。
『人に頼らず人に迷惑を掛けず、人が何をしようと批判もしない。そして人が本当に困っている時には スーパーマンみたいに普通の人ではできない力を発揮して助けてあげられる人間』そんな人間になりたいというのがタケルの望みでした。
そしてそれはまるで植物のようだとタケルは気が付きました。
植物は動物が生きるためにかけがえのない酸素を作ることが出来ます。そうする事が自身を成長させる行為なのですが、動物が成長するのは植物を食べるか 植物を食べて生きている動物を食べることでしか出来ません。
これほど一方的な関係でも植物は文句一つ言わないし、それでいて逞しく生きています。
それを考えるとタケルは自分が動物である事が情けないような気持ちになりました。
そして次第に「植物のようになりたい」と思うようになり、その思いは次第に強くなって行ったのです。
そんなある日 タケルは気がつくと小さなバナナの株になっていました。
始めはビックリしましたが、考えて見るとバナナは大変すばらしい植物なのです。
植物の葉の中に有る葉緑素は太陽の光を受けて 二酸化炭素を分解し酸素を作る事が出来ますが、バナナは葉だけではなく木全体が緑色ですから バナナの木は酸素を作っていないところがないのです。
そのうえ実は甘くて美味しく栄養も有りますが、種はありません。
普通果物が甘くて美味しいのは、その実を食べた動物に種を運んでもらって子孫を繁栄させる目的でそうなっているといわれていますが、バナナの実に種が無いということは、バナナは自分の為に実を甘くさせているわけではないのです。
つまり全ては自分の実を食べる動物を喜ばせるためなのです。これほど崇高な存在はないでしょう。
それは『救世主』と呼ばれ今でも世界の多くの人から尊敬されている『あの人』とも崇高のレベルでは同等かそれ以上かもしれないのです。
タケルはバナナになった自分をむしろ誇らしい気持ちになっていきました。
太陽のエネルギーを体いっぱいに受けとめると、清浄な酸素が自分の体から生まれてくるのが分かります。
満点の星空の下で静かな夜を過ごせば、夜露が身を清めてくれます。
タケルは自分がどんどん清浄になって行く事を感じていました。
ある日 ガリ勉と言われているツトムがタケルの前を通り掛りました。
ツトムは塾に行く途中らしい。
ツトムはふと立ち止まってつぶやいた。
「うちのクラスのバカ共は今日もみんなで集まって遊んでいるんだろうな。
まったく、頭の良いボクが勉強しているのに、バカのあいつらが勉強しないでどうするつもりなんだか 。今の世の中は学歴社会なんだ。
学歴が無ければ大人になって後悔するのが分かっていないんだから」
ツトムはそう言って深くため息をついた。
その顔は何処か淋しそうだ。
(ツトムは本当はみんなと遊びたいのに、無理に遊びたくないと自分に言い聞かせている)とタケルは感じました。
勉強しなければ大人になった時 良い仕事に就けないというのは、タケルにも何となく分かります。でも自分の心まで騙して勉強しようとするツトムは可愛そうに見えました。
また ある日 おてんばのマサコが通り掛りました。
「あいつ私の事『一生お嫁に行けない』なんて言うから、ちょっと殴ったら泣き出しちゃって‥。あれでも男かね。
私が一生結婚しなくたって それは結婚出来ないからじゃなくて、結婚しないんだから。
私はキャリアウーマンとして男以上の仕事をしていくんだから。
結婚が何よ!」
マサコはそう言って足元にあった小石を蹴った。
タケルは不思議な気がしました。マサコの心が分かってしまうのです。
マサコは、本当はお嫁に行く事に憧れているのではないでしょうか。
男勝りのマサコも実はデリケートな心を持つ普通の女の子なのでしょう。
以前だったらタケルもあの すぐに喧嘩腰になるマサコをこんな風に感じることはなかったでしょう。
こんなに好意的な目で見る事は無かった筈です。
タケルはバナナになって精神的に大きく成長したようです。
タケルはそれに満足し、バナナになった喜びを感じていました。
タケルが成長したのは精神的にだけでは有りませんでした。体もまた大きく成長して立派な木になっていたのです。
ある日タケルは自分の足元に小さな目が出ている事に気が付きました。
それはタケルの子です。
タケルはなんとも妙な嬉しい気がしましたが、取りあえず子供に話しかけて見ました。
しかし子供はなんの反応もしません。
植物は親子でも話をしないのでしょうか?
それともタケルは人間からバナナになったために、植物の言葉とか 話し合う方法が分からないからでしょうか?
タケルは必死になって色々試してみたのですが、子供からは何の反応もありませんでした。
タケルはガッカリして、だんだんふさぎ込むようになってしまいました。
しかしそんな時 体の中心がムズムズしはじめたのです。
バナナの体の芯が成長を始めたのでした。
それは突上げるような強さでズンズン大きくなって、ついには体を突き破るようにしてラグビーボールのような形のものが姿を現しました。
ボールのようなものはどんどん大きくなって、まもなくそのボールの皮が一枚剥けると 細長い花がボールを囲むようにぐるりと一列に並んで咲きました。
そして一日二日すると 花の下の皮が剥けて同じようにぐるりと囲むように細長い花が咲きました。そしてまた一日二日すると またその下の皮が剥け 花が咲きます。
そうやって次々に花が咲いていくのです。
それはワクワクした興奮でした。
タケルはもう子供のことなどどうでも良いような気持ちになってしまうのでした。
植物が花を咲かせ実をつけるとき みんなこんな気持ちになるのでしょうか?
勿論他に比べようがありません。
でも 抑えられないようなワクワクした気持ちが体中を駆け巡るのでした。
やがて花に実がつき それが大きな房に育ってくると、もう毎日が太鼓でもたたいて踊り出したい気分です。
そしていよいよその実が熟してくると喜びは頂点に達しました。
それで溜まらず叫びました。
「ボクは美味しいバナナだ!ボクは美味しいバナナだ!」
タケルは『良い子』になりたい気持ちの強い子です。
自分ではそんなに良い子とは思っていないのですが、大人達は勝手にタケルを良い子と言って誉めてくれるので、タケルは「自分が本当は良い子ではないのを知られたくない」・「本当の良い子になりたい」と思うようになったのです。
学校でも良い子をしているので先生は誉めてくれますが、クラスの子にはあまり人気がありません。
クラスの人気者は、わがままだけど面白いことを言うのが得意なタケシです。
タケシは塾に行く予定の子でも、平気で遊びに誘って塾を休ませたりする子です。
タケルはそういうタケシのする事はおかしいと思っています。
でもそれを言えば、クラスの子は「タケルは、タケシが人気を有るのを嫉妬している」と思うかもしれません。
プライドの高いタケルは そう思われることも嫌だが、もっと言えば 自分がそんな下らない事をいちいち思い悩む事自体が嫌なのです。
タケルはもっと超然としていたいのです。
『人に頼らず人に迷惑を掛けず、人が何をしようと批判もしない。そして人が本当に困っている時には スーパーマンみたいに普通の人ではできない力を発揮して助けてあげられる人間』そんな人間になりたいというのがタケルの望みでした。
そしてそれはまるで植物のようだとタケルは気が付きました。
植物は動物が生きるためにかけがえのない酸素を作ることが出来ます。そうする事が自身を成長させる行為なのですが、動物が成長するのは植物を食べるか 植物を食べて生きている動物を食べることでしか出来ません。
これほど一方的な関係でも植物は文句一つ言わないし、それでいて逞しく生きています。
それを考えるとタケルは自分が動物である事が情けないような気持ちになりました。
そして次第に「植物のようになりたい」と思うようになり、その思いは次第に強くなって行ったのです。
そんなある日 タケルは気がつくと小さなバナナの株になっていました。
始めはビックリしましたが、考えて見るとバナナは大変すばらしい植物なのです。
植物の葉の中に有る葉緑素は太陽の光を受けて 二酸化炭素を分解し酸素を作る事が出来ますが、バナナは葉だけではなく木全体が緑色ですから バナナの木は酸素を作っていないところがないのです。
そのうえ実は甘くて美味しく栄養も有りますが、種はありません。
普通果物が甘くて美味しいのは、その実を食べた動物に種を運んでもらって子孫を繁栄させる目的でそうなっているといわれていますが、バナナの実に種が無いということは、バナナは自分の為に実を甘くさせているわけではないのです。
つまり全ては自分の実を食べる動物を喜ばせるためなのです。これほど崇高な存在はないでしょう。
それは『救世主』と呼ばれ今でも世界の多くの人から尊敬されている『あの人』とも崇高のレベルでは同等かそれ以上かもしれないのです。
タケルはバナナになった自分をむしろ誇らしい気持ちになっていきました。
太陽のエネルギーを体いっぱいに受けとめると、清浄な酸素が自分の体から生まれてくるのが分かります。
満点の星空の下で静かな夜を過ごせば、夜露が身を清めてくれます。
タケルは自分がどんどん清浄になって行く事を感じていました。
ある日 ガリ勉と言われているツトムがタケルの前を通り掛りました。
ツトムは塾に行く途中らしい。
ツトムはふと立ち止まってつぶやいた。
「うちのクラスのバカ共は今日もみんなで集まって遊んでいるんだろうな。
まったく、頭の良いボクが勉強しているのに、バカのあいつらが勉強しないでどうするつもりなんだか 。今の世の中は学歴社会なんだ。
学歴が無ければ大人になって後悔するのが分かっていないんだから」
ツトムはそう言って深くため息をついた。
その顔は何処か淋しそうだ。
(ツトムは本当はみんなと遊びたいのに、無理に遊びたくないと自分に言い聞かせている)とタケルは感じました。
勉強しなければ大人になった時 良い仕事に就けないというのは、タケルにも何となく分かります。でも自分の心まで騙して勉強しようとするツトムは可愛そうに見えました。
また ある日 おてんばのマサコが通り掛りました。
「あいつ私の事『一生お嫁に行けない』なんて言うから、ちょっと殴ったら泣き出しちゃって‥。あれでも男かね。
私が一生結婚しなくたって それは結婚出来ないからじゃなくて、結婚しないんだから。
私はキャリアウーマンとして男以上の仕事をしていくんだから。
結婚が何よ!」
マサコはそう言って足元にあった小石を蹴った。
タケルは不思議な気がしました。マサコの心が分かってしまうのです。
マサコは、本当はお嫁に行く事に憧れているのではないでしょうか。
男勝りのマサコも実はデリケートな心を持つ普通の女の子なのでしょう。
以前だったらタケルもあの すぐに喧嘩腰になるマサコをこんな風に感じることはなかったでしょう。
こんなに好意的な目で見る事は無かった筈です。
タケルはバナナになって精神的に大きく成長したようです。
タケルはそれに満足し、バナナになった喜びを感じていました。
タケルが成長したのは精神的にだけでは有りませんでした。体もまた大きく成長して立派な木になっていたのです。
ある日タケルは自分の足元に小さな目が出ている事に気が付きました。
それはタケルの子です。
タケルはなんとも妙な嬉しい気がしましたが、取りあえず子供に話しかけて見ました。
しかし子供はなんの反応もしません。
植物は親子でも話をしないのでしょうか?
それともタケルは人間からバナナになったために、植物の言葉とか 話し合う方法が分からないからでしょうか?
タケルは必死になって色々試してみたのですが、子供からは何の反応もありませんでした。
タケルはガッカリして、だんだんふさぎ込むようになってしまいました。
しかしそんな時 体の中心がムズムズしはじめたのです。
バナナの体の芯が成長を始めたのでした。
それは突上げるような強さでズンズン大きくなって、ついには体を突き破るようにしてラグビーボールのような形のものが姿を現しました。
ボールのようなものはどんどん大きくなって、まもなくそのボールの皮が一枚剥けると 細長い花がボールを囲むようにぐるりと一列に並んで咲きました。
そして一日二日すると 花の下の皮が剥けて同じようにぐるりと囲むように細長い花が咲きました。そしてまた一日二日すると またその下の皮が剥け 花が咲きます。
そうやって次々に花が咲いていくのです。
それはワクワクした興奮でした。
タケルはもう子供のことなどどうでも良いような気持ちになってしまうのでした。
植物が花を咲かせ実をつけるとき みんなこんな気持ちになるのでしょうか?
勿論他に比べようがありません。
でも 抑えられないようなワクワクした気持ちが体中を駆け巡るのでした。
やがて花に実がつき それが大きな房に育ってくると、もう毎日が太鼓でもたたいて踊り出したい気分です。
そしていよいよその実が熟してくると喜びは頂点に達しました。
それで溜まらず叫びました。
「ボクは美味しいバナナだ!ボクは美味しいバナナだ!」
作品名:バナナ美味しいぞー! 作家名:作田修