大魔王ハルカ(旧)
と言う声とともにルーファスは見事なダイビングをした。何も無いところで彼はつまづいたのだ。強調してもう一度言う『何も無い所で』。その反動で手に持っていたおぼんが空を舞う、ついでにお茶の入ったグラスも飛んだ、中身のお茶も飛んだ、そして、お茶は引力に引かれ、バシャン!
「……(あつい)」
カーシャにかかった。しかし、カーシャの表情は少しも変わらなかった。むしろ、慌てたのはハルカだった。
「カーシャさん、だいじょうぶですか!」
ハルカは慌てて近くにあったティッシュ箱を手に取って、ティッシュをガーって何枚も取ると、カーシャの顔を拭きまくった。
「……(へっぽこにあわてものコンビ……ふふ)」
「はぁ……はぁ……(これだけ拭けば)」
「……(こんなこと前にもあったような)」
カーシャの顔からはお茶は一滴たりとも残さず消滅した。……しかし、結果は”あのとき”と同じだった。カーシャの顔はティッシュのカスですごいことになっていた。それに気付いたハルカは、
「ご、ごめんなさい(前にも同じことしたような気が……)」
「これ、使って拭いてあげて」
ルーファスはハルカに布を手渡すと、ハルカは、
「ごめんなさい(カーシャさんの美しい顔が……)」
と言いながらカーシャの顔を拭いた。のだがカーシャは思った。
「……(この布って)ぞうきん」
「はっ!?(ぞうきん)」
ルーファスの顔が凍りついた。
「……(しまった、ぞうきんを手渡してしまった)」
カーシャは突然立ち上がるとスタスタとルーファスに近づき、無言でルーファスの腹にボディーブローをくらわした。
「うっ……(痛い)」
カーシャのボディーブローはアマのものではなくプロのパンチだった。
ルーファスは腹を押えながらゆっくりと床に倒れこむと、それっきり動かなくなった。ち〜ん、御愁傷様でございます。
「そうだ……写本の話の途中だったな(これでも30%の力だ……ふふ)」
「……そうでしたね、あはは(カーシャさん怖い)」
「今からその写本を見に行こうと思うのだが二人も来るか?」
「行きます、行かせてもらいます」
即決のハルカに対してルーファスの顔は浮かない表情をしていた。というよりまだ腹が……。だがルーファスはがんばって口を開いた。
「行くってどこにだよ?(少しやな予感がする)」
「国立博物館だ」
この言葉にルーファスはあからさまに嫌な表情をした。それを見たハルカは少し不思議そうな顔をする。
「…………(どうしたんだろルーファス?)」
「どうしたルーファス、おまえは行かないのか?」
「見に行くだけだよね?(まさかね?)」
「当たり前だ、私が盗みにでも行くと思っているのか?(…………ちっ)」
「やぱっり盗みに行くのか(だと思った)」
「本当ですかカーシャさん!!」
「うん!(意外に感が鋭いなへっぽこ)」
カーシャはお花を自分の周りに飛ばしながら可愛らしく、少女の気持ちで答えたが何の効果もみられなかった。……ヤリ損。
「ハルカは私と行ってくれるだろ?」
「はい! もちろんです(帰れる方法が見つかるかもしれないし)」
「私は行かない(泥棒なんてできるわけないだろ)」
そう言って何処かに行こうとしたルーファスの襟首を掴んでカーシャが引き止めた。
「ハルカの保護者として付いて来い」
その声はいつも以上に低くドスの効いた声だった。脅しだ! だがルーファスはそんな脅しには屈しなかった。
「……ヤダ!(目がイッてる……恐い)」
だが目は決して合わそうとはしない……この時点でルーファスはカーシャに負けていた。
「なら、こないだの置物の弁償代2万ラウル(返せねぇって言うんだったら謝金の片にこいつを貰っていくぜ……きゃあ、おとつぁん! ……ふふ……ウケる)」
やっぱり、カーシャの性格はよくわからない。……話がずれた。
「あれはハルカが壊したんだろ」
「じゃあ、あのときのことをバラすぞ(ルーファスって、ルーファスって……きゃあ……ふふ)」
これは完全な脅迫だった。
「いいんだな、国民全員に言うぞ!(ルーファスって……サイテー……ふふ)」
ルーファスの顔の血行がみるみるうちに悪くなり顔面蒼白に。
「……わかった行くよ(これは脅迫だ!)」
ハルカは思った。
「……(あのときのことって何だろ?)」
そのとおり、あのときのこととはいったい何のことなのだろうか……? 実のところルーファスにも心当たりが多すぎて、何の事を言われているのかはわかっていなかった。ルーファスへっぽこ列伝の一つには違いないだろうけど。
残っていたお茶を飲み干したカーシャは、身体をきびし返して、
「では、今すぐ行くぞ」
「まだ、昼だよ」
ルーファスの指摘は正しい。ちなみにカーシャはここに来たとき『こんばんわ』と言ったが今の時間は午後1時半。
「盗みっていったら夜じゃないんですか?」
「夜の方が警戒が厳重だ。そのぶん昼間は人は多いが警備は手薄になっている!(あくまで思いつきで確証はないが)」
カーシャはかなり自身満々だが、この発言は彼女お得意の思いつき。
自信満々のカーシャを見てルーファスの不安は余計に増していく。
「あのさぁ、昼間に普通に行くんじゃ顔がバレバレじゃないの?」
「私に考えがある(……ふふ)」
こうしてカーシャちゃんの『おしゃれ泥棒大作戦』が始まったのだった。ちなみにこのネーミングはカーシャちゃんの思いつきで特に意味はありませんのでご了承下さい。
カーシャの思いつきで始まってしまった『おしゃれ泥棒大作戦』だけど、うまくいくのでしょうか……?
そんなわけで次回につづいたりする・……。
作品名:大魔王ハルカ(旧) 作家名:秋月あきら(秋月瑛)