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そこにあいつはいた。

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 数刻その半球状の膨らみを放心しきって眺めていた俺だったが、そのマンガチックな見事さに腹の底から沸々と笑いがこみ上げてきて、とうとう思い切り吹き出してしまった。
 座敷童子は相変わらず何のことやら分からない様子で、笑い転げる俺を見ながら怪訝そうに首を傾げた。
「ああ……おっかしい。妖怪もたんこぶできるんだな。取り敢えず、アイスノン持ってきてやっから、それ当てて冷やしてろ」
 座敷童を花びんの欠片が飛び散っていない辺りに座らせ、動き回らないように言い含めてから、冷蔵庫からアイスノンを出し、タオルにくるんで持ってくる。
 こめかみにそれを当てさせてから、ゴミ箱やら花びんの欠片やらが散乱した寝室を改めて見回し、それでようやく現状を認識できたらしく、今頃になって少しだけ腹が立ってきた。
「しかし、いたずらにしても程があるぞ。妖怪だからって、やっていいことと悪いことがあるだろ。しかもそれで怪我までしてるんだからさ……」
 ブツブツ言いながら花びんの欠片を拾い集め、持ってきた古新聞にくるんでガムテでとめ、散らばっていた物を元あった場所に片付け、階下から掃除機を持ってきて部屋全体をかける。
 座敷童子はその間中、言われたとおり大人しくこめかみにアイスノンを当ててじっと作業を見守っていた。
 それにしてもすっかり酔いが覚めた。酔ってる場合じゃなかった。取り敢えず動けるようになったのは、座敷童子(こいつ)のお陰と言えば言えなくもない。
 妖怪なりに反省しているような気もするし、何故だかあまり腹も立たなかったので、それ以上あれこれ言うのは止めて、取り敢えず布団と洗濯物を取り込もうと窓際に歩み寄り、窓を開けようとネジ鍵に手を伸ばした俺は、はっとしてその動きを止めた。
 ネジ式で超面倒くさいその鍵が、まるで途中まで開けられようとしていたかのように、半分飛び出したような格好で斜めに出っ張っていたのだ。
 ゆるゆると振り返り、部屋の片隅に座り込んでいる座敷童子に目を向ける。
「もしかして……お前、洗濯取り込もうとしてくれたのか?」
 座敷童子はアイスノンをたんこぶに当てながらじっとこちらを見つめているだけだったが、やがてほんの少しだけ、サラサラの髪を揺らして首を右に傾けた。