かくれもの
少女は、あたたかい日差しとやわらかい空の下で、いつか何処かで見たような、幸せに溢れ、満ち足りた笑顔を浮かべ、大切そうにその手に抱いていたスケッチブックを、すっとこちらに差し出した。その笑みに促され、少し低い位置にあるそれに、引き寄せられるかのように手を伸ばす。それが手に触れた時、不思議なほど自分の手に馴染むのを感じた。
「どうかわたしの世界を描いて。そう、願えばきっとできる」
ああ、俺は漸く今朝目覚めた時の、やっと見つけたという言葉を理解した。
手の中のスケッチブックをしっかりと持ち直し、正面に立つ少女を真っ直ぐに見つめる。ぼんやりと、姿が薄くぼやけていくのが判ったが、俺は視線を外さなかった。
「ありがとう、君を導く俺を導いてくれて」
その言葉が彼女に伝わったかは、判らなかったけれど、その答えはこのスケッチブックの中にある気がした。
俺は、このスケッチブックを失くしたりなんてしていなかった。俺が終結まで導く筈だったあの少女が、自分の歩む道のために、預かっていてくれたのだ。
それからすぐに、最初に彼女のイメージが降りてきた時ように、早足どころか駆け足で家へと向かった。
帰ってすぐに開いたスケッチブックには、俺の描いたラフスケッチのあちこちにあの少女の姿があった。花畑に座る姿や、城でそこの姫と話す姿、本を見上げる姿、たくさんの友達に囲まれて笑う姿。
俺はやっと彼女の探しているものを知る。描く手もキーを叩く指も、もう動きを緩めることはなかった。
○ ● ○ ● ○
少女はあたたかい太陽とあおく広い空を見上げました。
少女の立つその場所には、あたり一面にきれいな花が咲いて、彼女に向かい、笑うようにゆれています。
少女のとなりには、お姫さまがいました。お姫さまだけじゃなく、たくさんのものもいました。お姫さまは楽しそうに少女に笑いかけています。たくさんのものたちは、お姫さまと少女のまわりで、かちゃかちゃとうれしそうにおどっています。
とおくからは、たくさんの子が少女のもとへ走ってやってきています。かれらもやっぱり笑っていました。
なにもなかった少女は、夢でみた、たくさんの友達に囲まれて笑う、とてもとてもしあわせな世界に辿り着いたのでした。