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VARIANTAS ACT3 再会

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Captur 1

「明日、火星に!?」
 珍しく上ずった声をあげるグラム。
「ベルセポリスと言えばHMAメーカーのジェネシック‐インダストリーの研究所ですよね。数年間成果を挙げて無くて殆ど予算をもらえないと言う……。第一なぜ私が? 私が居ない間はどうするのです? もし敵襲があったら? 第一わざわざ私が出向く理由が分かりません」
「ミラーズ大佐不在の間は第一、第二機甲師団に非常召集。警戒に当たらせる。それにお前に直接出向いてほしいときっての願いだそうだ。なんでも直接、試作品の視察をしてほしいのだと」
 背凭れに寄り掛かるガルス。
「説明はした。まだ何か?」
「……いえ。行きます」
「よし。それと、この資料に目を通しておけ」
「『火星圏重要機関施設に対してテロ活動を繰り返す武装集団アストレイについての見解』? 何ですかこれは?」
「一応だ…一応」
「はぁ…了解しました。一応」
 グラムが部屋を出て行くのを見送ったガルスは、しばらくしてから受話器に手を伸ばした。
「例の資料は渡した。問題の部分は削除していたな?ああ、問題ない…」
 ガルスは受話器を置くと窓の外を眺めて呟く。
「……もっと別の容で……。いや、遅すぎたな……」



************



[翌日、火星オリンパス宇宙港]

「火星に来るのはあの日以来だな…」
「ええ。二人で始めてディカイオス‐エイレーネで出撃した日ですね」
 静かに微笑むエステル。
 二人は火星オリンパス宇宙港の特別ターミナルに到着し、ゲートからハイウェイ入り口に出た。
 出るとすぐ、目の前に車が止まり、大柄な男が降りてきた。
「グラム=ミラーズ大佐ですね? ベルセポリス兵装研究所の者です」
 男は身分証を見せながら簡単な自己紹介を済ませると、二人の荷物をトランクに積め、グラム達を乗せた車を走らせた。
 車の中でグラムが男に尋ねる。
「ベルセポリスは都市一つが全て研究施設と聞いたが?」
「はい。ベルセポリスは元々自治体の管理する都市でしたが、わが社が大戦で大破したドームを買い取り、研究施設として改修し、現在に至っております」
「施設まであとどれくらいで着く?」
「後、二時間ほどです」
 彼は溜息をし、頬杖を突いて窓から外を眺めた。
 密閉型のハイウェイチューブの外に見えるのは、所々に点在する小さな都市のみで後は砂だけ。
 この惑星のテラフォーミングは大戦で一時中止しており、いまだに環境調整中。
 地球と同じ環境になるのはあと10年後である。
 セカンドムーブ時に火星地表へ落着した地球艦隊艦船の残骸も、手付かずのままだ。
 もう、幾つものゲートをくぐった。
 そのゲートは全て武装したMAPS(強化外骨格)を装着した警備員が警備していた。
 予算が無いとは言え、警備だけはちゃんとしているらしい。
「着きました」
 巨大な建築物の密集する都市に入ると、男は一際大きなタワーの足元にあるエントランスの前に車を止めた。
 車を降りる二人。
 すると、一人の女性が駆け寄ってきた。
 二十代前半位の若い女性だ。
「グラム=ミラーズ大佐ですね? お待ちしておりました! こちらへ」
 二人を建物の中に招き入れる女性。
 二人は彼女の案内で、エントランスフロア正面の一際大きなエレベーターに乗り、地下階へ。
 下り続けるエレベーター。
 すでに何十フロアも通過し、やがて最下層。
 開くエレベーターゲート。
 目の前に現れる大きな扉。
 彼女はカードキーで扉を開けた。
 目の前に広がる研究室。
 そこには大きなスクリーンやたくさんの機器が並んでいて、大勢の研究員がコンソールのキーを叩いている。
「グラム=ミラーズ大佐、わがベルセポリス兵装研究所へようこそ! では早速、新型特殊粒子砲の説明をさせていただきます」
 説明を始めようとする女性を、グラムが止める。
「ちょっと待ってほしい。“グレン=ヴェジエ博士”は何処に?」
 くすりと笑う女性。
「自己紹介が遅れて、申し訳ありません。始めまして。グレン=ヴェジエです。もしかして男性だと思っていました?」
「……」
 図星を突かれ、彼は無言で答える。
「初対面だと、皆さん男性だと思っているみたいなんです。気にしていませんから大丈夫ですよ?」
 グレンは、結った後ろ髪を左右に揺らしながら、くるりと向きを変え、コンピューターのキーを叩いた。
「では、説明の続きをさせていただきます。今回我々の開発した新型特殊粒子砲は機構内で生成したハドロン系重粒子をコヒーレント化し、射出する兵器です。共鳴粒子は命中した物質を粉砕し崩壊させるいわゆる徹甲炸裂弾です。名をつけるとすれば『コヒーレントカノン』ですね。これが完成すれば、ヴァリアントの高密度装甲も撃ち抜けます。現在はまだ試作段階ですので、チャージに時間がかかり、また消費電力も膨大で外部電源を有線で接続しています。何かご質問は?」
「火器としてはどれくらいのサイズだ?」
「数値にしますと、全長25m、重量、40tです」
「これはHMAも使用できる火器として設計しているのか?」
「はい。そうですが?」
「それにしては大きすぎるな。ディカイオスなら未だしもHMAでは、構えて撃つのが精一杯だ。持って移動なんてできない」
「試作段階ではこの大きさになってしまいましたが、改良が進めばさらに小型化できるはずです。まだ何かご質問がお有りでしたら」
「いや、以上だ」
「では、地上ドーム外の試射場へどうぞ。準備は整っております。実験機は単座式ですので、大佐の支援ユニットにはこちらから遠隔でリンクします。名前は確か…」
「エステルだ」
「…え? ええ…はい…」
「…? どうした、博士」
「いえ。実験を続けましょう!」
 無言のまま直通のエレベーターに乗り、試射場に向かうグラムを見送り、グレンは大きくため息をついた。
「何言ってんだろ…私…」
「主任。実験機とのリンク、開始します」
 研究員の声で我に返る。
「いいわ。エステルの調子は?」
「プロセス、01から38までクリアー。驚異的な処理能力です!」
「彼女ならここのシステムを2分で掌握できるわね」
 グレンは、画面を見ながらそう呟いた。



Captur 2

「リンク完了しました」
 グレンはエステルの座る、イクサミコ専用のシートに近づき、彼女に話しかける。
「今ならもう話せるわよね?」
「はい」
「あなた凄いわね!800のプロセスをたったの30秒で完了するなんて」
「わたしの頭脳を開発した技術者達の功績です」
「でもあなたは、こちらで預かっているデータ以上のスペックを発揮しているわ。ねぇ、あなたの名前は彼がつけてくれたの?」
「はい。わたしの正式名は“独立型戦闘支援AIユニットヒューマノイドタイプイクサミコバージョン000”ですが、彼が・・・ミラーズ大佐が“エステル”と言うわたしだけの名前をつけてくれました。本来、兵器のわたしに固有名は不要でした。それでも大佐はわたしを一人の仲間として、名前をつけてくれました。ですから、“エステル”。これがわたしの名です」
「いいなぁ…」
「何がですか?」
「恋人みたいで」
 エステルは、一瞬黙ってから。