王立図書館蔵書
ぼくの言葉が浅葱にちゃんと届くように、ぼくは大声で叫んだ。たくさんの天井が、浅葱をぼくから奪おうとするようにどんどんと降ってくる。浅葱に当たらないでとぼくは心の中で強くお願いをした。でも天井たちはみんなぼくの願いを聞いてくれない。
それきり、浅葱は何も言わなくなった。浅葱の眼が静かに僕をみつめている。
でもどうして瞬きしないんだろう。教えてくれたのは浅葱じゃないか。マオウだって人間だから、人間と同じように息もするし瞬きもするしお腹もすくって。
ねぇ、浅葱。聞こえてるよね。そうでしょ? また、いつもみたいにいじわるしているだけなんだよね?
「浅葱・・・・・・? 浅葱、浅葱、浅葱! 目をあけてよ、意地悪しないでよ!」
必死にシャボン玉を叩く。両方の手のひらがボロボロになってもあきらめなかった。とても痛かったけど、それでもぼくは少しでも浅葱に近づきたかったから。それに、浅葱はぼくよりもずっとずっと痛いはずだから。
「まだ日記を見てもらってないよ。ほめてもらってないよ。また、ぼくの頭をなでてよ・・・・・・!」
こんなにぼくが泣いているのに浅葱はちっとも気づいてくれない。浅葱は動かない。笑わない。何も言わない。人間なのに、どうしてお人形みたいなの?
大きな天井の塊が浅葱とぼくの間に落ちて、ドスンと大きな音を立てて床にめり込む。その衝撃で床が大きくグラリと揺れた。天井が降ってきたように、今度は床が下の部屋に降る番なのかもしれない。
降りつもった石の雨で浅葱が見えなくなってしまった。どんなに呼んでも、もう浅葱は応えてくれない。でもこうして呼び続けないと、浅葱と本当にもう二度と会えなくなっちゃうんじゃないかって不安でたまらなくて、ぼくは何度も呼び続けた。浅葱の名前を。
「いやだよ。いっちゃやだ、ひとりにしないで、浅葱!」
天井がなくなって青い空がぼくたちの上にはあった。浅葱はあんなに真っ赤だったのに、空は嘘みたいに青くて、とてもきれいだった。
「浅葱ィィィィィ!」
浅葱の最後のマホウに守られたまま、ぼくは声が出なくなるまでずっとずっと叫びつづけた。