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王立図書館蔵書

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 これが、日記帳から読み取ることのできた全て・・・・・・わたしが玉蘭にできれば直接話して聞かせたかった真実の全てだ。

 わたしが楓を見つけたときには瓦礫に埋もれるようにして、魔王、いや浅葱は既に事切れていた。楓が倒れていたのはその少し離れたところで、驚いたことにほとんど無傷だった。ぼろぼろになっていた手は、おそらく結界を壊そうとして自分で傷つけたのだろう。やがて楓はほどなくして目を覚ましたが、心はもうそこになかった・・・・・・。

 玉蘭、君はどう思う? 楓の心はどうしてしまったのだと思う? わたしはこう思うんだ。楓の心は本当に、浅葱を追いかけて行ってしまったのだと。少なくともわたしはそう信じている。

 わたしは浅葱を丁重に弔ってやり物言わぬ楓を連れ、かつて古城があった場所を後にした。そうして今、最初に述べたように、お城までそう遠くない小さな村でわたしはこの手紙を書いている。

 玉蘭、君はこの真実を知って何を思っただろうか。城で会ったときに見せたような笑顔を一度も浮かべることのない楓の手を引き、わたしはずっといろいろなことを考えていた。
 魔王は所詮、生まれつき魔法が使える人間に過ぎないのではないのかと。大多数の魔王が悪事を働くのは、生まれたときから魔王として蔑まれる運命にあるからではないのかと。わたしがこの城を訪れなければ、あの二人の幸せは守られたのではないのかと・・・・・・。

 玉蘭、君はどうだい? 君はこれを読んで何を思っただろう。

 君はまだ誰かを恨んでいるだろうか。ひょっとしたらそれは浅葱かもしれないし、わたしかもしれないね。それとも君のお父上やお母上だろうか。それは人間として心ある身であるならば当然のことでもあるから、誰も恨むなとは言わない。ただ、わたしは知ってほしかった。楓のことを、魔王のことを、そして、わたしのことも。

 これを読んで玉蘭が何を思おうとそれは玉蘭の自由だ。だから、わたしと同じことを無理に思おうとしてくれなくて構わない。そう思った心を大切にしてほしいとわたしは願う。

 君はいつか、姫はずっと姫でしかなく、王になることも他の何かになることもないから、夢などないと言っていたね。やりたいこともなりたいものも、望むだけ悲しいだけだから考えないのだと言っていたね。
 でも、わたしは知っているよ。玉蘭が姫という型にはまって生きていけるほどおとなしい子じゃないことを。だって、何度こっそりわたしの旅についてこようとしたかを君は覚えているかい? 自分で見つけた城から出る抜け道の数を数えたことがあるかい?

 玉蘭、わたしは君にもっと自由に生きてほしい。好きなように、思うままに。たとえそれが許されることでなかったとしても、わたしはそう望んでいる。どうか、それを覚えていてほしい。君と楓の幸せを心から望む者が確かにいたことを。

 さて、そろそろ夜も明けてきたのでここで筆を置こうと思う。眠っている楓を起こして、楓のことを心配している人たちのためにも早く城へ帰らなくてはならない。
 わたしのことはこのまま忘れてくれてもいい。でも、どうかわたしが言ったことだけは忘れないでくれたらうれしい。

 さよなら、玉蘭。わたしは君と楓のことが大好きだったよ。


――――わたしの小さな友人へ
作品名:王立図書館蔵書 作家名:烏水まほ