寝ずの晩―第1話
棺の中のひいばあは、本当にただ眠っているようにしか見えなかった。ちょっと声をかければそのまま起き上がってきそうだった。死んだばかりの人間はみんなこんな感じなのかな?と思いつつ、ちょっと「久しぶり、ひいばあ。生きている間に帰ってこれなくてごめんね」と声をかけてみた。当然だけれど返事はない。僕はしばらく一方的に、独り言のように取り留めもない言葉をかけていた。ちょうど一緒に夜の川で見た蛍の光について話そうとした其のとき、後ろから「なにやってんだい?」若い女性の声が聞こえた。
どこか懐かしい、ほっとするような声。僕が誰だと思って振り向いた。そこには黒いワンピースを着た、清潔感あふれる綺麗な女の子がたっていた。年は三十歳歳といわれても、二十歳といっても、どちらでも通じそうな独特な雰囲気を醸し出していた。彼女は動揺する僕を尻目に、ひいばあの棺の窓をあけて、一言ボソッと「やっぱりそうか」と言った。現状を理解できない僕に向かって、彼女は「おう。しばらくぶりだな。元気してたか?」と話しかけてきた。今の現状を理解できない自分に気づいたのか、彼女は僕に向かって確かにこういった。「なんだよ孝介!せっかく人が化けて出たんだからもっといいリアクションとれ!」