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寝ずの晩―第1話

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「寝ずの晩」

今日の午前11時25分、僕のひいばあが他界した。享年は九十五歳。眠るように息を引き取ったらしい。僕はひいばあが好きだった、だからその急な訃報には心底驚いた。ひいばあはとても豪快な人で、若い頃は、石田さんの所の娘さんは殺しても死なないだろう。最低でも120歳までは生きるだろう。ヤクザの事務所に単身で乗り込んだ。などなど数々の武勇伝を残していて地元ではとても有名だった。しかし、持ち前の人懐っこさで、どんな人でも5分も話せばひいばあのファンになった。でもそんなひいばあはもうこの世にいない。
決して会うことの出来ないところへ旅立ってしまった。

 単身上京していた僕は、仕事が終わると急いで帰省する準備をした。幸い今日は金曜日。仕事にも支障をきたす事も無く、特に予定も無かったからスムーズに特急列車に乗りこむことが出来た。実家に着いたのは夜の11時。葬式は明日行われるらしい。親族の煩わしい会話から離れて、僕は久しぶりに帰った実家を、まるでひいばあの生きていた痕跡を探すかのように見て回った。「ほんと、10年前と変わらないな。」自然と言葉が口からこぼれた。

10年、家を出てからそれだけの月日がたった。でもここは変わらない。ここだけ時間が止まったかのように。まるで変わるのを拒否するかのように。気づくと時間はもう深夜1時を回っていた。そろそろ寝ずの番の交代の時間だ。できればもっと早く帰っていれば、と仕事のことで頭がいっぱいだった自分を罵りながら、遺体が安置されている部屋へ向かった。

 僕は基本的に、実際自分で目にしたものしか信じないようにしている。どんなに詳しく人から説明をしてもらっても、自分が実際目にしないと信じることが出来ない。それは数少ない僕のモットーであって、今まで怪奇現象や幽霊などは信じないタイプの人間だった。この寝ずの番を経験するまでは。

 仕事の疲れと、もともとあまり徹夜が苦手だったということもあり、この時間帯の番をやると決まったときは、正直あまりうれしくは無かった。しかし、ひいばあのためだと言われて渋々とこの役を引き受けることになった。時間は深夜1時〜3時まで。目を冴えさせるために、苦手なブラックコーヒーを一気飲みして部屋に入った。
作品名:寝ずの晩―第1話 作家名:伊織千景