Silver. unwritten,white.
ペンを握ったまま、真っ白なノートをぼんやりと見つめていた。
少し年季の入ったヒーターがカタカタと鳴る。外はとうに薄暗く、まだ開け放したままのカーテンの内側で硝子が曇っていた。
ふわふわと暖かい部屋の空気。遠くを走る電車の音。かすかに聞こえる、時計の針が動く音。
眠いのか、夢を見ているのか分からない。ただ時間だけが贅沢に過ぎていく。
「手、とまってるぞ」
テーブルの向こう側に肘をついて、眼鏡をかけた青年がつまらなそうに呟いた。
「だって、分かんないんだもん」
膨れてみせると、溜め息をつく真似をして口角を上げた。
頬杖を解いて、少しだけ身を乗り出すようにノートを覗き込む。
「どれが分からない」
「これ」
「錘の体積の公式はなんだっけ?」
「底辺の面積かける、高さ」
「だけ?」
「…かける三分の一?」
「正解」
こっちは円柱だから気をつけろよ、とテキストの右側をつつきながら付け加える。
そう、贅沢な時間だ。
きっと世界一贅沢で、世界一過ぎるのが早い時間。まだ十数年しか生きていないけれど、今までもこれからも、これに優る時間なんてきっと存在しない。それほどに思えるくらいの、憧れと幸せ。
「なんか眠そうだね」
ちらりと視線をあげると、窓外に目を向ける横顔が見えた。
「この時間はね。それにお前の手もよく止まるし」
「でも、今日はいつもより出来てるでしょ?」
「まぁな」
目線の代わりに言葉が返ってきて、彼はそのまま立ち上り窓際に歩いていった。
暗闇と硝子に映る白い表情。寄りかかるように腕を組んで、じっとどこかを見ている。欠伸を堪える仕草。所在無げな右手が、ジーンズのポケットに触れる。
少し年季の入ったヒーターがカタカタと鳴る。外はとうに薄暗く、まだ開け放したままのカーテンの内側で硝子が曇っていた。
ふわふわと暖かい部屋の空気。遠くを走る電車の音。かすかに聞こえる、時計の針が動く音。
眠いのか、夢を見ているのか分からない。ただ時間だけが贅沢に過ぎていく。
「手、とまってるぞ」
テーブルの向こう側に肘をついて、眼鏡をかけた青年がつまらなそうに呟いた。
「だって、分かんないんだもん」
膨れてみせると、溜め息をつく真似をして口角を上げた。
頬杖を解いて、少しだけ身を乗り出すようにノートを覗き込む。
「どれが分からない」
「これ」
「錘の体積の公式はなんだっけ?」
「底辺の面積かける、高さ」
「だけ?」
「…かける三分の一?」
「正解」
こっちは円柱だから気をつけろよ、とテキストの右側をつつきながら付け加える。
そう、贅沢な時間だ。
きっと世界一贅沢で、世界一過ぎるのが早い時間。まだ十数年しか生きていないけれど、今までもこれからも、これに優る時間なんてきっと存在しない。それほどに思えるくらいの、憧れと幸せ。
「なんか眠そうだね」
ちらりと視線をあげると、窓外に目を向ける横顔が見えた。
「この時間はね。それにお前の手もよく止まるし」
「でも、今日はいつもより出来てるでしょ?」
「まぁな」
目線の代わりに言葉が返ってきて、彼はそのまま立ち上り窓際に歩いていった。
暗闇と硝子に映る白い表情。寄りかかるように腕を組んで、じっとどこかを見ている。欠伸を堪える仕草。所在無げな右手が、ジーンズのポケットに触れる。
作品名:Silver. unwritten,white. 作家名:篠宮あさと