赤い靴で歩く彼女
「昔は車の免許も持っていたけどね。」
「ふうん。」
「車に乗っていて、遠い距離はしってると、時々出くわすでしょ。何か動物の下糸か。」
「あー、あれが嫌なの。」
「ううん。そうじゃなくて、あれを見たとき思ったの。悲惨だなって。どこか埋めてあげればマシなんだと思ったけれど。」
「けれど。」
「車運転してると、とまれないでしょう。ここは止まるところがないからとか、後から車が来てるからとか、そういう風に思って、止まらない、私は。そう思ったときにね。
ああ嫌だなあ。
って思ったの。」
「だから。」
「うん。」
「へー。はははっ。」
「なに。」
彼女はやっぱりこちらを見なかったけれど、その声には不機嫌そうなイントネーションがついていた。
「んー、別に。なんだろうね。」
「ふうん。」
「ところでさ。」
「うん。」
「向こうの道路の真ん中にカラスの死体が有るけれど、あれを埋めてあげるの?」
「私はね。」
彼女は歩調を変えずに言った。
「車だと出来ないからって言い訳出来ちゃうのが嫌なのよ。ただ私がゲスだからと言う理由で死体を見捨てて行きたいの。だって、用事もなく、暇に歩いていて見捨てたら、ただ人間性が劣悪なだけでしょ。」
「子供っぽいねえ。」
「うん。」
そう応える彼女の言葉には満足そうな音が混じっていた。