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赤い靴で歩く彼女

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茶色いタイルの歩道を、彼女はかつかつと音を立てて歩く。けだるく足を擦るように歩くので、靴の硬いソールが妙に大きな音を立てる。そうして、その音の存在感に彼女自身は全く気付いていない様子でいつも歩いていた。
 僕が彼女と一緒にいるとき、彼女を見かけたとき、彼女はいつも歩いていた。
 遠出をするときに電車に乗ることはあっても、バスにも乗らず自転車に乗ろうとしていなかった。
 そうして彼女は、手持ち無沙汰のように、手で貧乏揺すりするように指をとんとんとんとんと腰に当ててリズムを取っていた。
「なあ。」
「うん。」
 こちらを見ることもなく彼女は応える。彼女はけだるそうに足を擦り、それなのに安い量販店で買った英字プリントのTシャツを着たその体を胸を張るような格好を何一つ変えず歩いていく。
「遠いなあ。」
「うん。」
「飽きないか。」
「うん」
「疲れないか。」
「うん。」
 彼女は色あせて薄青色になったジーパンをはいた足をぶらぶらと振って見せた。地面に擦れてぼろぼろになった裾から糸がふらふらと踊って見える。足が痛いとでも言いたいのだろうと思った。
「車乗ればいいのに。」
「うん。」
「なんで乗らないの。」
「ああ、うん。なんていうのかな。」
 そう言って彼女は首を捻った。長い髪の毛が無造作に揺れている。
 こうやって首を捻るとき彼女は、どうしてかを考えているのではなく、どう言おうか考えているのだった。それは三年も会話していて最近ようやく分かった。口べたが過ぎて、とっさに言葉が出てこないらしい。
作品名:赤い靴で歩く彼女 作家名:春川柳絮