短く返信した
『沙希。オレたち、もう一度最初から付き合わないか』
両手でコーヒーカップを包むようにして、沙希は目をあげた。
切れ長の瞳が俄かに滲んだ。
『ワタシから言い出して別れたにも関わらず、やっぱりワタシも寂しかったのか、悦司と会って話したら、テンション高く始まってしまって……でも、今誰かとちゃんと付き合うのは無理だって気付いた。友人でいることの繋がりを強要したのはワタシなのに、失礼な話しだね。ごめんなさい。どうして会えばいつもぶつかるのかとずっと考えてた。悦司はやっぱり自分だけを見ていてくれる彼女が欲しいんだよ。でもワタシはいらない。そりゃぶつかるよね。もちろんそれだけが理由じゃないけどね。悦司の彼女の定義はワタシみたいなオンナじゃなくて、自分だけを見つめてくれる人だと思う。悦司、ちゃんと別れよう。悦司に友人を強要するのは本当に悪いことをしたと思ってる。ごめんなさい。ワタシは、男性の友達も沢山いるよ。元カレもそう。だけど、元カレは最良の友人だから、悦司が考えているような関係じゃないよ。お互いに新しいカレやカノジョが出来たら話すことになってるから。だから悦司のことも前に話したよ。何度も言うけど、悦司が思ってるような関係じゃないの。ワタシはひとりとだけに向き合える相手にまだ出逢ったことがないし、そんな勝手で都合のいいことばかりを言ってたら、いずれ誰にも相手にされず何もかも失うかも知れないけれど仕方がないわ。『もう一度最初から付き合わないか』って言ってくれてありがとう。でもね、やっぱりカノジョは無理だと思う。沢山いっぱい有難う。ごめんなさい』
あの日以来、悦司は沙希とは逢っていない。
悦司は自分の中にある痛い想いと向き合って、ずっとずっと考えて続けて底が尽きるまで向き合った。凄く辛くて苦しいし痛かった。
だけど吐き出すだけ吐き出して、底が尽きて吐き出すものがもう無くなって、自分という人間を冷静に眺めることが出来始めたような気がした。
悦司はこれまでどんなことに対しても力で平伏せようとしていたのかも知れない、と。
自分の意に反する事には、全否定を前提に押し付けて、彼女を支え守りたいという想いも、結局それは自分以外の人間から隔離し、閉じ込める為の高い堤を作らせることを望み、自分に封じ込め独占することを愛することだと思っていた。