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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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えりちゃん

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えりちゃんは白い色が大好き。
たとえば朝学校へ行く途中、白い犬に出会ったら、頭をなでたり抱きしめたりして、いつまでも遊んじゃう。
 空き地にシロツメクサなんか咲いてたら、かんむりを作り始めて、出来上がるまでぜったい動かない。おかげでわたしまでちこくしちゃう。

 えりちゃんは2年生の時転校してきた。わたしの家の近くにこしてきたので、最初にわたしがえりちゃんの友だちになった。
 えりちゃんはかけ算九九ができなくても、昆虫とダンゴムシの違いはちゃんと知ってるし、漢字が読めなくても、花の名前はたくさん知ってる。おしゃべりも楽しいので、わたしはえりちゃんが大好きになった。
 だけど、えりちゃんは白いものに夢中になると、みさかいがなくなるし、授業中にとんちんかんなことを言ったりして、ちょっと変わっているから、たちまちいじめっ子に目をつけられた。
 あるとき、男の子が給食の牛乳を3パックも一気のみさせて、えりちゃんはおなかをこわしてしまったことがある。
 頭にきたわたしは、いじめっこたちを定規でひっぱたいて泣かせてしまった。その時から、えりちゃんは、わたしの言うことならなんでもきくようになった。
 だから、授業中うるさくしても、わたしが注意すればおとなしくなる。おかげで先生からもみんなからもたよられて、わたしはちょっぴりとくいだった。
 でも、最近はそうでもなくなった。
 4年生になると、わたしはミニバスケットボール部に入ったので、いつも練習で帰りがおそくなるし、試合が近いときは朝練もある。それでもえりちゃんはわたしといっしょにいようとする。
 じっとしていられないたちのえりちゃんは、ボールをいじったり、練習中コートの中に入ってきたりする。すると先生も5,6年生の先ぱいたちもわたしに文句を言う。
 だから、このごろわたしはえりちゃんがうっとうしくなった。

 5月のおわりの日曜日。ミニバス部のハイキングで、山の上の自然公園に行くことになった。
えりちゃん抜きで遊べるのが楽しみで、ないしょにしていたはずなのに、その朝げんかんを出ると、目の前にえりちゃんが立っていた。
「かなちゃん。おはよ」
 いつものようにえりちゃんはニコニコ笑っている。急に気が重くなったわたしは、何もいわずにさっさと歩き出した。えりちゃんはちょこちょこ小走りで追いかけてくる。
 みんないやな顔するだろうなって思うとゆううつだったけれど、予想に反してみんなは「しかたないよ」って言ってくれたので、わたしは少しほっとした。
 はじめのうちは、みんなといっしょに歩いていたえりちゃんだけど、モンシロチョウが飛んでいるのをみたら、チョウを追いかけて横道に行ってしまった。みんなあっけにとられていたけど、わたしはやっとの思いでつれもどした。
 ところが、少し行った草むらに白い花が咲いていたので、えりちゃんはすわりこんでしまった。こうなるとおてあげなので、みんなには先に行ってもらうことにした。
 木立に囲まれた山道に取り残されると、自分がすごくみじめになってきた。どうしてえりちゃんのために、わたしがこんな思いをしなきゃいけないのだろう。えりちゃんは花をつみながらむじゃきに歌を歌っている。わたしは急にえりちゃんが憎らしくなった。
「あれ? みんなどうしたの?」
 えりちゃんの無神経なことばに、わたしはついに爆発した。
「何言ってるの。えりちゃんが勝手なことばっかりするから、置いていかれたんでしょ。もうたくさんよ。えりちゃんなんかだいきらい」
 えりちゃんはびっくりして、それから悲しそうに顔をゆがめた。
「今日はミニバス部のハイキングなの。えりちゃんは関係ないから帰って!」
 わたしは冷たく言うとみんなの方に走り出した。えりちゃんのわたしを呼ぶ声がする。でも、わたしは振り向かなかった。
「知らない。えりちゃんなんか知らない」
 わたしは心の中でさけんだ。

 結局その日は楽しめなかった。山頂の公園でアスレチックをしても、展望台でお弁当を食べても、えりちゃんのことが気になって仕方なかった。
 家に帰ると、えりちゃんが道草してつんでた花が飾ってあった。
「お帰り。えりちゃんがお花をくれたわ。あんたたちいっしょじゃなかったの?」
 いいわけを考えていると、ママはわたしの心を見透かしたように言った。
「かな。えりちゃんに何かしたでしょ」
 しかたなく、わたしはママに今日あったことを正直に話した。
「えりちゃん、このごろ変わったわ。ちっともわたしの言うこときいてくれない。わたしが困ることばかりする」
「かなの気持ちもわかるわ。でも、変わったのはかなの方じゃない?」
「え?」
「ミニバスを始めて、かなには別の友だちができた」
「あ……」
「そっちに気をとられて、自分の気持ちだけをえりちゃんに押しつけてない?」
 ママの言うとおりだ。わたしはえりちゃんを家来みたいにしていた。今日のことだってちゃんと話せば、こんなことにはならなかったかもしれない。
 いろんなことを思い出してみると、えりちゃんがボールをさわるのはボールひろいの手伝いのつもりみたいだし、コートの入ってくるのだって、注意されたわたしを心配してくれたから。
 えりちゃんはいつもわたしのことを考えてくれていたのに……。うぬぼれていた自分が恥ずかしくなった。

 次の朝、えりちゃんはいつもと変わらずうちに来てくれた。いっしょうけんめい笑っているけど、どこかびくびくしている。わたしが「ごめんね」っていえば、元通りになれるのに、一言も言わないうちに学校に着いてしまった。
 給食の時間がすんで、当番のわたしは後かたづけのため教室を出て行った。他の当番の子がいつものように残った牛乳をえりちゃんにあげた。
 そのとき、わたしとえりちゃんが気まずくなっていることに気づいた男の子たちがいたずらにはやし立てた。
「いっき、いっき」
 わたしが教室にもどったとき、えりちゃんは4パック目を飲んでいた。
「よしなさいよ。あんたたち!」
 けれど、男の子たちはますます騒ぎ、えりちゃんは飲むのをやめなかった。
「えりちゃん、やめなさいって」
 わたしはむりやり牛乳パックを取り上げた。
 そのとたん、えりちゃんはおなかを抱えてしゃがみこんでしまった。急いで保健室にいったけど、ますますいたがるばかり。
 そうして救急車が呼ばれ、えりちゃんは病院に運ばれていった。
「えりさんはこれから手術することになったそうです」
 教頭先生の話を聞くと、わたしはいてもたってもいられなくて、ぱっと教室から飛び出した。
「えりちゃん、死なないで。ごめんね、ごめんね」
 わたしは夢中で走った。

「まあ、かなさん」
 つきそって病院にきていた担任の牧野先生はわたしを見てびっくりした。そばにはえりちゃんのママがいる。
「かなちゃん。えりがいつも迷惑かけてごめんなさいね」
「おばさん、えりちゃん、死なないよね?」
 えりちゃんのママはきょとんとした。その時先生が言った。
「かなさん。教頭先生のお話、、ちゃんときいたの?」
「え?」
「かなちゃん、えり、盲腸なの」
 えりちゃんのママは吹き出しそうなのをこらえながら言った。先生もくすくす笑っている。
作品名:えりちゃん 作家名:せき あゆみ