The SevenDays-War(緑)
「中隊長。ずぶ濡れで森から出てくる怪しい男を発見し、保護したのですが、こんなものを持っていました。隊長のお知り合いではないでしょうか?」
「ほう」
二人の騎士が、馬上で会話を交わす。
王都エルセントの南西に広がる大森林、通称『蛮族の森』に程近い地点。
大森林の地盤は台地のように隆起しているため、幾つもの小川が流れ出る。そのうちの一つがエルセントのすぐそばを流れており、一部生活用水として利用されている。
エルセント周辺を警護する治安維持部隊は、その川沿いを重点的に巡回することで安全を確保している。
人間を襲う魔獣とはいえ、生き物である以上は水辺に近づく。魔獣は安全に水を飲めない場所には近づかないのだ。
巡回は小隊単位で行われる。
小隊の人数は六人。騎士が隊長を務め、五人の一般兵、もしくは下級騎士及び見習い騎士によって編成される。
複数の小隊を集めた中隊、さらにそれを集めると大隊、そして連隊、師団と大きくなってゆく。小隊六人を半分に分けた三人編成の部隊を分隊と呼び、都市内部における治安維持、いわゆる警務活動においてはフットワークを重視し、分隊単位で行われる。
「これは懐かしいものが出てきたな。俺の門兵長代理時代のものじゃないか」
渡された通行証には、北門発行であることを示す印と、『ガーランド・アレックスルドラ』という名前が彫られていた。
「アーノルド隊長は北門の門兵長を務めておられたことがあると聞いておりましたので、もしや、と思ったのであります」
アーノルドは懐かしい名前が彫られている通行証を感慨深く眺めていた。
「隊長?」
「ん? あぁ、すまん。これを持っていたのは男だと言ったか?」
「そうであります」
「そいつはどこに?」
「ずぶ濡れでしたので、詰め所で着替えさせています」
「俺が行っても構わんかな?」
「やはりお知り合いでしたか」
アーノルドは馬首を返す。中隊長であることを示す左肩の飾りが、キラリと日光を反射する。
「いーや、知らない奴だ」
治安維持部隊は、街道から少し離れた地点に一般人が利用する宿場とは別の拠点を構えている。その拠点間を巡回し、周辺の治安維持を図っている。
中隊長となったアーノルドは、十五の小隊を指揮する身分にある。だが実際は、規定数に満たない八個小隊を率いているに過ぎない。
作品名:The SevenDays-War(緑) 作家名:村崎右近