The SevenDays-War(緑)
(四) 世 界
「落ち着かれましたか?」
「あぁ、すまない」
カーンの差し出す杯を受け取ったアーノルドは、内溶液を一気に飲み干した。
「言いたいことがあるのなら、遠慮なく言ってくれ」
すでに頂点を通り過ぎた太陽が、物見櫓の袂に座るアーノルドを照らす。
「上に行きませんか?」
カーンはアーノルドの返事を待たず、振り向いて歩き出した。
詰め所の西側に設置してある物見櫓は、主に大森林を監視するために使われている。この櫓からでなければ見えない場所というものが存在しないために、ほとんど使われておらず、アーノルドが公然の隠れ場所として使うにとどまっている。
「森へ行かれなさいませ」
無表情で無感情。それはいつも通り過ぎるカーンの物言いだったのだが、アーノルドにはそれが余計に堪える。
アーノルドとて、分かっているのだ。ここに留まっても何も出来ないことを。
何の迷いもなくそれが当然とばかりに言い放つカーンに対し、まず何の感情をぶつけるべきかを迷い、結局その答えを得られずに、ただただ沈黙だけを返す。
「貴方の怒りは充分に伝わっています。身勝手、理不尽、不条理、そして自身の無力への怒りも」
「俺はただ……」
アーノルドの反論は、形を成す前に掻き消される。
「ここにいる限り、貴方は無力なのです」
―― この国を離れよ
何度となく頭蓋に響くルドラの言葉。
ここに来て、アーノルドはようやくその言葉の意味を知る。
ルドラは、この土地を離れろと言ったのではなく、エルセントという国から離れろと言ったのだ。
己の信念に仕えよ、と。
「そういう……ことか」
アーノルドは眼光鋭く大森林を睨む。
「頭を潰せば統率が乱れる。そうなれば戦いになるまい。森から追い出すことができれば、闇夜にまぎれて農村を襲撃することもできなくなるだろう」
「勝てますか?」
後発部隊の将であるマイッツァー・ダリオは、御前試合での優勝経験を持つ剣の使い手であり、その名を轟かせている。そんな男を相手にしようというのだから、カーンが心配するのも当然の話だ。
「奴が最強なのは、赤絨毯の上だけだ」
そう言って笑うアーノルドの瞳には、決意の光が宿っていた。
「ヤールーの導きがありますように」
準備を終えて騎乗したアーノルドに、カーンは祈りを捧げた。
作品名:The SevenDays-War(緑) 作家名:村崎右近