The SevenDays-War(緑)
アーノルドが門兵長時代の出来事を話し終わる頃、火災現場の偵察に行っていた斥候が帰還したという報せが届けられた。
一つ、火災はエルセントとは反対の南西方向に広がっているが、その火勢は弱く、雨さえ振れば鎮火するだろうとのこと。
一つ、何者かが集団で生活していた痕跡があり、その様式からエルセント人の集落ではないと断定できること。
一つ、復路において森を抜ける直前に何者かに急襲されたこと。
「そのときに射掛けられた矢を一本拾って参りました」
斥候が差し出した矢は、見慣れたありふれたものだった。
蛮族の、ポポマのものではない証拠だ。
アーノルドはカーンと目を合わせ、共に頷く。
「決まりだな」
「そうですな。在りもしない財宝の独占を目論んでいるようです。しかし、ポポマには注意を喚起しました。これからの襲撃は容易ではないはず」
残る問題は、農村の住人を如何に守るかの一点に絞られたことになる。
「ポポマたちが森に潜む連中を始末するまでの間、最寄の詰め所に避難させるのはどうだろうか?」
「それでよろしいのですか?」
なぜそう問い返されたのか、アーノルドには分からない。
カーンは続ける。
「エルセント人の命が多く失われることになりますが?」
ポポマたちは、村を焼いた者たちを許さないだろう。文化を異にする者同士、罪の清算はその命以外にない。
「何者であろうとも、報いは受けねばならん」
カンカンカンカンと続けて四度、警鐘が鳴る。
それは緊急な要件を持った早馬が近づいていることを詰め所の全員に伝えるもので、代えの早馬の用意や、近隣の農村への伝達準備を開始する合図でもある。
「出よう」
アーノルドはカーンを誘って外へと出た。
タイミングを同じくして早馬が到達する。
「アーノルド中隊長殿とお見受けする。火急の報せにて、馬上の非礼をお許し頂きたい」
アーノルドは伝令が伝える報せを黙って聞いていた。
伝令は用意された馬に乗り換え、土煙を上げて南へと走り去る。
「襲撃を手引きした者がいる、村を離れる素振りを見せた者は斬れ」
アーノルドは伝令が残した言葉を繰り返した。
「これで俺たちは匿うことも守ることも出来なくなったわけだ」
さすがのカーンも、言葉を失っていた。
「同族でも殺し合える醜い生き物だよ、人間とは」
作品名:The SevenDays-War(緑) 作家名:村崎右近