The SevenDays-War(緑)
(序) 物 語
白と青とのツートンカラーで染められた空。風は優しく木々を揺らし、小鳥たちは夜明けを祝う。
「うん。今日もいい朝だ」
エルセント大聖堂の裏手にある宿舎の一室で、ナインはやることもなく窓の外を眺めていた。
ナインは、キャスが魔力と精気を送り込んだことで一命を取り留めていた。送り込んだ方法は、ナインには知らされていない。
一命を取り留めたものの、歩いてエルセントまで戻れるような状態ではなく、アルザットの砦にて半月ほど静養した後、さらに半月掛けて王都エルセントまで戻ってきたのだ。
黒ずんでいたナインの身体はすっかり元に戻っていたが、いまだ剣を振れるほどの握力は戻っていない。
カチャリ、と扉が開かれ、大司教がナインの部屋を訪れた。慌てて姿勢を正そうとするナインを、大司教が手で制す。
続いて、銀の光を放つ長い髪を引き連れた少女、ミース・T・キャロライナが姿を現す。
「ほほ。よい朝じゃな」
「お呼びくだされば、こちらから出向きましたのに」
「ワシの執務室では話しにくいこともあろうと思ってのぅ」
ナインは大司教の強い視線を受け止める。
生じた一瞬の静寂に、大司教はにこりと笑った。
「わざわざ恐縮です」
ナインはキャスと視線を合わせ、互いに頷いた。
そして、この機会はキャスが用意してくれたのだと悟る。
「僕は、何者ですか?」
意を決したナインは、単刀直入に訊ねた。
「的を射ておるようで、的外れな質問じゃの。誰が何と言おうと『お主はお主』じゃろうて」
大司教は質問をはぐらかす。
その背後では、約束が違うという顔のキャスが厳しい視線を大司教に向けて放っていた。
「僕が僕であるために知りたいのです。ルドラが狙っていたのは僕だったのではないでしょうか? 『黒炎の騎士』に狙われるということ、それは……」
大司教はナインの言葉を手で制した。
「ちと意地が悪かったかの」
大司教は立ち上がり、キャスに代わりに座るように促した。長い話になる、とその瞳が告げている。
キャスはナインのベッドに上がり、足元の方に座った。それを見届けて、大司教は再び椅子に腰掛ける。
「たしかに、黒炎の騎士は断罪者や執行者とも呼ばれておる」
豊かな白い顎鬚を一撫でして、大司教は話し始める。
作品名:The SevenDays-War(緑) 作家名:村崎右近