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オレと彼女と心霊写真

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オレと彼女と心霊写真





オレの悩みを聴いてほしい。どうか笑わずに聴いてほしい。いや、それはいいか。どうせ笑うんだから。でも、どうか信じてほしい。オレは頭がおかしい訳じゃない。

ここに一枚の写真がある。夜の海岸、友達と三人で撮ったスナップ写真。真ん中に写ってるのがオレ。左の奴はショウジ。右で線香花火を振り回してる奴はジュン。いや、そんなことはどうでもいいんだ。
オレの足もとを見てほしい。何が見える? …… トレーナー? いや、惜しいな。それはパーカーだよ。ステューシーのパーカー。
おかしいと思わないか? この写真の三人は、全員アロハシャツを着てるだろ。夏だからな。夜とはいえ八月だし、まだまだ暑い時期だったからな。それなのに、足元にこんな厚手のパーカーが置いてある。おかしいと思わないか? …… 思わない、だと? 夜の海岸で寒いかもしれないから、パーカーを持参して来たんじゃないかって?

じゃあ、もう一枚、こっちの写真を見てみてくれ。クリスマス・イブの夜、お台場のクリスマスツリーの前で友達とツーショット。…… え? これはショウジだよ。さっきの写真の左側の奴。そうか、この頃のあいつは髪を伸ばしてたし、分かりづらいよな。 …… 男同士でイブの夜を過ごしたのかだって? …… あのな、今はそんな話、どうでもいいんだよ。
このツリーのてっぺんをよく見てくれよ。ほら、こんなところにマフラーがひっかかってるだろ。おかしいと思わないか? …… 大しておかしくはない、風に飛ばされた誰かのマフラーがひっかかってるだけじゃないのか、だと?

これならどうだ。これはビックリするぞ。ありえない写真だからな。これは、クルマの中で撮った写真な。ハンドルを握りつつ、満面の笑みを浮かべてピースサインしてるオレ。 …… この写真を撮ったのは誰なのかって? ショウジだよ。あのさ、さっきから気になってたんだけど、そういうどうでもいい質問するのはやめにしないか。
ていうか、一目見たらこの写真がおかしいことぐらい気付くだろうが。 …… そう、バックミラーの所にダウンジャケットが掛けられてるよな。窓の外の景色は流れてるから、このクルマが走行中だってことも分かるだろ。…… な? どこの世界に、ダウンジャケットをバックミラーに掛けたまま運転する奴がいると思う?



今見せた写真に写ってるこの衣服類、実はこれ全部、霊なんだよ。

そう、これは全部、心霊写真。



おい、どこに行くんだよ。ちゃんと悩みを聴いてくれるって約束だろ。オレを信じてくれるって言っただろうが。オレは頭がおかしい訳じゃないんだよ。…… なに? わき見運転は危ないからやめろだって? 大きなお世話だよ馬鹿野郎。



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二日酔いで頭が痛い。昨日は飲みすぎた。先週クラブで知り合った奴とサシで飲んでいたのだが、オレが“あの話”を始めたら、奴は呆れ顔で去っていった。“話が通じそう奴”だと勝手に思い込んでいたのだが、完全な見当違いだったという訳だ。その後、独りでヤケ酒を煽り始めて、そこから先の記憶はない。でも、こうしてちゃんと自宅に辿り着いていた訳だから、結果オーライだろう。

オレは冷蔵庫を開けて、ミネラルウォーターのペットボトルを取り出した。キッチンの流し台でうがいをしてから、喉をぐびぐび鳴らしながら水を一息で飲み干す。

それからオレはケータイを手に、内蔵カメラで自分撮りをする。いつもの儀式みたいなものだ。
オレは頭がおかしい訳じゃない、という証明。

冷蔵庫の前で自分撮りしたその写真をチェックする。ひどい寝ぐせ、寝ぼけた顔のオレの隣で、今日はナイキのアンクルソックスが宙に浮いていた。

オレは一応、周りに目をやる。当然のことだが、宙に浮いたアンクルソックスなど、どこにもありはしない。

この通り、オレは衣服の霊みたいなものに取り憑かれているのだ。 ━━ オレが“衣服霊”と名付けたそれは、オレが写った写真には必ず写り込んでしまうのだ。



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「すみません …… チョーさんですか?」

駅前でティッシュ配りをしていたオレに、声を掛けてきたのは同い年ぐらいの女の子だった。

「そうですけど …… どこかでお会いしましたっけ?」

「いいえ。初対面です」
彼女は簡単に自己紹介を始めた。
パッチリした目に太い眉毛で、昔のアイドルを思わせる顔立ち。肩までの髪のソバージュはだいぶとれかかっていて、おしゃまな女の子の三つ編みパーマのように見える。モスグリーンのチュニックに、ダメージのないブルージーンズ …… ファッションで何かを主張するようなタイプではなさそうだ。オレは他人のファッションをとやかく言えるほどオシャレではないが、“衣服霊”に取り憑かれてからは、大して意味も無く他人の服装を気にするようになってしまっていた。

「ハルオくんから聴いてきたんですけど …… あの、心霊写真のことで悩んでるんですよね?」

なるほど …… ハルオというのは、昨日サシで飲んだアイツだ。どうせオレが打ち明けた“あの話”を元に“すべらない話”に加工して、今日はきっといろんな場所で大爆笑をとっていたのだろう。

「わたしは馬鹿にするつもりなんか、一切ないですからね」
彼女はオレの気持ちを察したかのように、真剣な面持ちで言った。
「それで、アルバイトは何時に終わるんですか? そこの喫茶店で待ってますから、よかったら詳しいお話を聴かせてもらえませんか?」

「あなた、霊感商法とかそういう人ですか?」

「違いますよ! わたしはただの大学生です」
彼女は少し憤慨した感じで答えた。たしかに失礼な言い方だったかもしれない。オレは女性と話すのがあまり好きではない。こうやって少しずつオレの自信を奪っていくから。

「とにかく、そこの喫茶店で待ってますから。絶対に来てくださいね」

彼女はそのまま踵を返し、喫茶店に入るまで一度もこちらを振り返らなかった。





「わたしも実は、霊に取り憑かれているんです」

彼女はいきなり切り出した。バイト帰りのオレが約束通りこの喫茶店に来て彼女が座っている席を見つけて“どうも”と一言だけ挨拶して向かい席に座ってメニューを手に取ったところで、だ。

だが、突然の、しかも突拍子もないそんな言葉を浴びせられても、オレは一切慌てることはなかった。なんというか、同じ境遇の者だけに嗅ぎ分けられる匂いみたいなものを、彼女から感じたからだ。

「…… 分かりますよ。誰にも信じてもらえず、いつしか、誰にも言えないことになっていくんですよね」

「いえ、わたしの場合、そういう感じではないんですけど」

彼女はそう言って、何枚かの写真を差し出す。
ゲレンデで転んで雪まみれになっている写真、露天風呂で肩まで浸かっている写真、教室で女友達といっしょの写真 …… どれも別々の場所で撮影されたもののようだ。

だが、全ての写真に共通することがあった。それは、どれも心霊写真ということだ。

とはいえ、まったく怖くはない。
作品名:オレと彼女と心霊写真 作家名:しもん