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暗殺者の掟(1)

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路地裏には、従者の死体が転がっていた。苦痛を保ったまま硬直した顔がこちらを覗いている。
「ラシード・・・・!」
昼間の喧騒が嘘のようにダマスカスの街は眠りについた。人もラクダも馬たちも音を立てない。時折、聞こえる鷹たちの鳴き声がここが砂漠の真ん中であることを思い出させてくれる。
青い色のカフィーヤに頭を覆って、こげ茶色の瞳をぎらぎらとさせている。アブガッスムである。
「遺物は渡さない!」
リズムよく建物跳んでいく姿はどこか幻想的だった。
ダマスカスの摩天楼の中に、ひと際大きなモスクがある。壁は大理石を使い、中央にはコーランが納めてある。
アブガッスムは、コーランを抜き取った。すると、眼下に階段が作られた。
「見つけた」
ゆっくりと階段を下りて行った。
アブガッスムが地下室に降りると黒装束の男が立っている。この地域には珍しい白い肌と、深く窪んだ奥に光る眼。
右の中指が切り落とされている。誰だかわかっている。ここで落ち合うはずだった人物を殺した男。
「貴様っ!」
ラシードは、アブガッスムの振り上げた白刃をひらりとかわすと、書棚の上に飛び乗った。
「お前はもうわかっているはずだ。近いうちに決戦は行われる。どちらが勝つか。俺にはわかる」
「我々、ニザールの使命は、遺物と聖地を守ることだ。貴様は、裏切り者だ」
「この俺が、飼われているのかと思っているのかい。それは違うね。俺にはもっと高貴な方々がついていてくれている」
ラシードが繰り出した剣を受け止めることで精いっぱいだった。重い。鉛のような重さにアブガッスムは、書棚ごと倒れこんだ。そのまま気を失った。

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頭が痛い。ここはモスクの一室のようだ。お祈りのためにきていたムスリムたちに助けられた。熱心な彼女たちは、優しく接してくれる。
「お前たち、黒装束の男を見なかったか?」
「さあ。ぞんじません。ただ、今朝西門の近くで血染めの黒いカフィーヤが見つかったそうですよ。」
「わずかな情報だが感謝する。」
「アッラーのお導きを」
西門に出たアブガッスムは、周りに人々に話を聞き、馬屋で一番早い馬を買った。
めざすは、エジプト。ラシードを追って。
馬に跨った彼は決意に満ちている。


<了>
作品名:暗殺者の掟(1) 作家名:早川妙太