暗殺者の掟(1)
暗殺者の掟
作 早川妙太
*この作品は歴史を題材にしたフィクションです。登場する団体、宗教は無関係です。
風がなびいていた。黒光りする豊かな髪をなびかせる。すこし癖のある髪だ。この地域では珍しくない褐色のいい肌をした男。家督の継いだばかりのアブガッスムにはより冷たく感じた。
大シリア主義。後年そう呼ばれるこの国シリアを見下ろしながら青年は言う。
「ダマスカスは、本当に大きな都だ。はるばるガダラから来た甲斐がある」
「へい、旦那。このたびは長い旅になりましたね」
「ああ。今回の旅は、ニザールの高貴な方をお迎えするのだ」
二人はダマスカスの門を潜っていく。砂漠の陽炎が遠くから来た旅人の歓迎しているようだった。ダマスカスの街は大都会である。北は地中海から、西はエジプトから人が波のように押し寄せる。ダマスカスの南門はヘレニズム文化とアラビア文化が合成された華美な門である。一種の中東地域のおけるランドマークであった。
「騒がしいですね。」
「あたりまえだろう。先の戦で少なからず傷を負ったのだろう。花の都も戦争となれば騒然となるさ」
この時代、大シリアは戦々恐々としていた。ヨーロッパ諸国で起きた十字軍運動。二度のキリスト教軍の侵攻に、ムスリムたちは耐え忍んできた。そんな彼らにも疲れは着実と出てきている。ダマスカスの物価は、日に日に高騰しているし、人々は形のない神、アッラーにより強く祈るような生活をしてきた。この次に十字軍がやってくれば、確実にやられてしまう。アブガッスムは、そう懸念していた。
「ニザールの宿はどこにある。」
「へい。案内人を待たせておりますので、わたくしめがおちあって場所を確認してきましょう。旦那さまは、こちらでお待ちください」
そう言って従者は市場の路地裏へと消えた。喧騒に溶けていった彼を人々は誰も気づかない。
*****************************
「残るは6つ。手ごたえのないやつらだ。いくぞ。この遺物も我々の手だ」
転がる骸に投げかけるようにして、黒装束の数人の男たちは虚空に消えた。
*************************************
「遅い。遅すぎる。」
頭で想像したことが起きていることはわかっていた。彼は足早に従者の消えた路地裏に入っていく。
「・・・!」
作 早川妙太
*この作品は歴史を題材にしたフィクションです。登場する団体、宗教は無関係です。
風がなびいていた。黒光りする豊かな髪をなびかせる。すこし癖のある髪だ。この地域では珍しくない褐色のいい肌をした男。家督の継いだばかりのアブガッスムにはより冷たく感じた。
大シリア主義。後年そう呼ばれるこの国シリアを見下ろしながら青年は言う。
「ダマスカスは、本当に大きな都だ。はるばるガダラから来た甲斐がある」
「へい、旦那。このたびは長い旅になりましたね」
「ああ。今回の旅は、ニザールの高貴な方をお迎えするのだ」
二人はダマスカスの門を潜っていく。砂漠の陽炎が遠くから来た旅人の歓迎しているようだった。ダマスカスの街は大都会である。北は地中海から、西はエジプトから人が波のように押し寄せる。ダマスカスの南門はヘレニズム文化とアラビア文化が合成された華美な門である。一種の中東地域のおけるランドマークであった。
「騒がしいですね。」
「あたりまえだろう。先の戦で少なからず傷を負ったのだろう。花の都も戦争となれば騒然となるさ」
この時代、大シリアは戦々恐々としていた。ヨーロッパ諸国で起きた十字軍運動。二度のキリスト教軍の侵攻に、ムスリムたちは耐え忍んできた。そんな彼らにも疲れは着実と出てきている。ダマスカスの物価は、日に日に高騰しているし、人々は形のない神、アッラーにより強く祈るような生活をしてきた。この次に十字軍がやってくれば、確実にやられてしまう。アブガッスムは、そう懸念していた。
「ニザールの宿はどこにある。」
「へい。案内人を待たせておりますので、わたくしめがおちあって場所を確認してきましょう。旦那さまは、こちらでお待ちください」
そう言って従者は市場の路地裏へと消えた。喧騒に溶けていった彼を人々は誰も気づかない。
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「残るは6つ。手ごたえのないやつらだ。いくぞ。この遺物も我々の手だ」
転がる骸に投げかけるようにして、黒装束の数人の男たちは虚空に消えた。
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「遅い。遅すぎる。」
頭で想像したことが起きていることはわかっていた。彼は足早に従者の消えた路地裏に入っていく。
「・・・!」