君ノ為ニ
それから数日。
宮子の元にはストーカーからの手紙は来なくなっていた。
最後に啖呵を切ってしまい、逆上させたかと恐れていた宮子は、遠ざけることが出来た結果となり、心底ほっとしていた。
あのストーカーも自分がしていたことの愚かさに、やっと目が覚めたのだろう。
まだ窓もカーテンも開ける勇気はない。
でも、外に出る回数は徐々に増えていた。
もうこれで悩まなくて済むと、明るい気分だ。
いつものようにソファでコーヒーを飲んでいると、宅配便です、という声が聞こえた。あの宅配員だ。
昨夜、母から荷物を送ると電話があった。その荷物が来たのだろう。
はーいと応え、玄関に向かう。
「こんにちは。生もののお荷物です」
あれ、生ものなんて言っていたっけ?と思いつつ、荷物を受け取る。
「ご苦労さまです」
伝票にサインして、玄関を閉めようとするが。あの、という言葉で遮られた。
「あの、宮子さん、最近お困りのことありませんでした?」
配達員は心配そうに、宮子の顔を伺う。
「え、えぇ。ちょっと悩みはありましたけど、最近はもうなくなりましたよ」
なんでですか?と聞こうとすると、配達員は、
「そう、ですか。よかった。ねぇ、宮子さん。突然、ストーカーがいなくなったの、なんでだと思いますか?」
ストーカー? ・・・なんで、この人が、知ってるの?
急に動悸が激しくなり、宮子は手に持っていた荷物を取り落としそうになる。
「この前、荷物を届けた後に、聞こえたんですよ。電話で、ストーカーに怒鳴ってるの」
配達員はいつもの笑顔を貼り付けたまま、じりじりと宮子に近寄ってくる。
「悔しかったですよ。僕、宮子さんのこと本気で好きだったのに。ストーカーなんかに邪魔されて」
言葉を発したいのに、パクパクと口が動くだけで声が出ない。
「だから、奴にもお仕置きしたんですよ」
悲鳴をあげたいのに、喉から空気が漏れるだけだ。
「その荷物、僕からのプレゼントです」
宅配員は宮子の持つ荷物を指指し、にっこりと笑った。
「大丈夫ですよ。宮子さんは僕が守ります」