祭り、そしてこれから
みんなで過ごす楽しい時間。
でも……それも、今見てる花火が消えたら終わってしまう。
あっという間だった。
楽しい時間はどうしてこんなにも過ぎ去るのが早く感じるんだろう。
最後の花火が消えて、音がなくなり静かになる。
急に静かになって、私は言いようのない寂しさに包まれる。
美砂「ねぇ、なんでお祭りはすぐ終わっちゃうの?」
私のつぶやきを聞いてみんなが顔を見合わせて笑った。
舞「美砂はそんなに祭りが好きなのか?」
美砂「当然だよ。だって、こんなに楽しいんだもん」
美砂「だからみんなと一緒にもっと遊びたのに、もう終わっちゃうなんて……」
あっという間に終わってしまったお祭りに戸惑いを感じていた。
まるで、今日の楽しかった時間が幻だったみたいで……。
佐由美「ねぇ、美砂ちゃん」
佐由美「もし、仮に……お祭りがずっと終わらないで四六時中やっていたらどうかしら?」
佐由美「それはもう、お祭りじゃないんじゃないかしら」
佐由美「私はね、思うの」
佐由美「お祭りはすぐ終わっちゃう」
佐由美「でも、だからこそ、その時その瞬間を大切にしようって思えるんじゃないかしら」
美砂「その時その瞬間を大切に……」
佐由美「そう」
佐由美「私たち、これからたくさん今日みたいなことがあると思うわ」
佐由美「その時間を大事にしなさいってことをお祭りは教えてくれているんだと思う」
今日みたいな楽しいことがこれからも……。
想像すると楽しくなってきた。
琴乃「さゆちゃんは物事を綺麗に考えるんだね」
佐由美「だってその方が得した気分になるじゃない」
舞「なんていうか、前向きだねぇ」
佐由美「それが私の長所ですから」
佐由美ちゃんが冗談まじりに胸をぽんと叩く。
舞「そうさねぇ……祭りはそういう意味合いもあるのかも」
舞「私はそんなふうに考えたことなかったけどね」
美砂「舞ちゃんはお祭りのことをどう考えてるの?」
舞「私? 私は祭りなんかじゃ満足はしない」
舞「だから美砂みたいに祭りが終わった時にこの世の終わりみたいな顔はしない」
美砂「この世の終わりみたいな顔なんてっ……」
……してたのかな?
舞「私はもっと楽しい時間を求めてる」
舞「常に欲張りで、満足することを知らない」
舞「私は何事に対しても高みを目指す、そんな自分でありたい」
美砂「それじゃあ、舞ちゃんは……お祭りは退屈なの?」
一緒に楽しんでると思ってたから、ちょっぴりショックだった。
舞「いや、そんなことない」
舞「私にとって祭りが全てじゃないってだけだ」
舞「祭りは私の可能性を再確認させてくれるし好きだ」
舞「それに、親友たちと遊べるのが退屈なわけない」
美砂「満足してないけど退屈してない……って? あ、あれれ?」
琴乃「みっちゃんは物事を極端に考えこんじゃうんだね……」
舞「そうみたいだな」
佐由美「あはは……」
美砂「うー……」
みんなに苦笑されてしまった。
琴乃「私はお祭りは好きだけど嫌いかな」
佐由美「好きだけど嫌い……」
また頭がこんがらがりそうになる。
琴乃「お祭りの最中は楽しくて幸せ。それは自覚してるわ」
琴乃「でも、自覚できる幸せっていつもより幸せで、その感情の落差から自覚できてるわけでしょ?」
琴乃「お祭りによって感じてる幸せはその時だけの一時の感情だわ」
琴乃「終わった後は日常が待ってて、その現実に落胆する」
琴乃「幸せの後は絶対に不幸が待ってるのよ」
琴乃「その逆もしかり」
琴乃「私は幸せは好きよ。でも不幸は嫌い」
琴乃「だから、考え方はみっちゃんに似てるかもね」
美砂「わ、私と?」
琴乃ちゃんが言ってたこと、ほとんどわからなかったんだけど……。
私ってそんなに難しいこと考えてたかな……?
舞「こりゃわかってないよ」
琴乃「天然だったのね、残念」
佐由美「そこが美砂ちゃんのいい所よ」
みんなが顔を見合わせて笑った。
美砂「もー、いっつも私だけ置いてきぼりにして」
美砂「私にもわかるように説明してよー」
舞「美砂がもっと大人になったらな」
美砂「私はみんなと同い年だよっ!」
琴乃「はいはい、もう遅いし帰ろう」
佐由美「その前に美砂ちゃんにも聞こうよ」
美砂「え?」
舞「そうだな」
舞「私たちがロマンチックな話をしたというのに、美砂だけ話さないだなんて不公平だな」
琴乃「それもそうね」
みんなの視線が私に集まる。
美砂「え、え? なになに?」
琴乃「何って、お祭りの感想的な」
美砂「お祭りの感想? そんなの楽しかったにきまってるよ」
舞「……ぷっ」
佐由美「くすくす」
琴乃「あははははは!」
大笑いされてしまった。
美砂「な、なんでぇ……?」
舞「い、いいんだ気にするな」
美砂「そんなに笑われたら気にするよ……」
みんなが笑いやむまで結構な時間がかかった。
舞「さすがにもうそろそろ帰らないとまずいな」
佐由美「そうね、帰りましょう」
美砂「むっすー」
琴乃「ほら、みっちゃんもふてくされてないで」
舞「ほら、美砂。帰るぞ」
むくれてそっぽを向いてる私の手を舞ちゃんが握った。
佐由美「美砂ちゃん」
美砂「ん?」
佐由美「また来年もこようね」
美砂「……うんっ!」
たったそれだけで私の機嫌は恐ろしいほどよくなってしまった。
だって、私はみんなが大好きだから……。
みんなとまたお祭りに来たい、そう願ってた。
そんなささやかな希望だけど。
それが私の幸せだから。
だからその時まで……。
お祭りさん、さようなら――。
作品名:祭り、そしてこれから 作家名:永知