かみひこうき。
私には関係のない事だと首を振って、全然進まない資料の整理をしていた。すると突然ドアを思い切り開く音がしたので驚きつつドアを見れば、髪をかき毟るようにしながら少し離れたお向かいの椅子に蒼井が座り込んだ。
「ちょっと、蒼井?」
こちらの問いかけに気付いていないように、女狐め……と呟いているのには若干の恐怖を覚えた。果たして鈴蘭はなにをやったのであろうか。
「調子悪いなら帰りなよ」
「やる。やんないとまた明日やる事になるだろ?」
のろのろと起き上がってペンを握りしめた彼は頬杖をついて作業を始めていた。しかし私以上に仕事の効率が悪い気がするのだが気の所為であろうか。
「熱でもあるんじゃないの?」
「……ねぇよ」
彼はブレザーのポケットから紙切れを取り出しては紙飛行機を作成し、こちらへと投げてきた。開けば鈴蘭らしい丸文字が展開されていた。
そこまでは予想通りとしても下の署名に誰も書いていないのに違和感を感じた。よくも、まぁ、名前が書かれていない呼び出しの手紙に応じたものだと呆れ半分に感心していれば、こちらの様子を伺うように眺めてくる。
「な、なによ。変に目が据わっているし」
「別に。というか、なんなんだあの女。可愛い顔して中身はエグいし……」
目元を腕で覆ってぶつぶつという素振りを見れば相当な目にあったのだろうかと漠然と考えさせられたけど、私には関係のない事だった。
席を立ち、項垂れている彼の額に手を当てればびくっ、と肩を揺らして蒼井が振り返る。
「なにすんだよ」
「……熱は無いようね」
それだけだよ、と付け足してから定位置へと戻り進まない資料に精を出し始めれば、彼はまた紙飛行機を折っていた。仕事をしろと叱咤する気も失せて、無視を決め込んでいれば白い紙切れは綺麗な放物線を描いて私の作業する机の上へと舞い降りた。
どうやら中には文字が書いてあるようで広げてみれば『付き合ってくれ』の一言。驚き蒼井の方を見ればいつも見下すような視線はどこへやら、頬には薄く朱が混じって玲瓏な印象などてんで与えてはくれなかった。
「アンタ、そんな格好して可愛いところあるじゃない」
「……うるせえ。で、どっちなんだ?」
言葉尻にかけて声のボリュームは下がっていて最後など吐息のような台詞に対して、私はたった今貰った紙飛行機の白紙部分に『別に構わない』といった旨を書いて相手の胸元へ向けて投げ飛ばした。