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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン3-逆襲の紅き煌帝-

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 男を殺し、セレンを救ったのはライザだったのだ。どういう技術を使ったのかわからないが、ライザは青年の躰に変装していたらしい。よくリリスも同じことをしていた。
 ライザは何事もなかったように、床に落ちていた服を再び着る。
 場は完全に凍り付いていた。
 ライザは辺りを見回した。
「だれか屍体を片づけておいてちょうだい。アタクシはシスターとおしゃべりがあるから、それでは失礼するわ」
 呆然と立ち尽くすセレンの腕を強引に引っ張ってライザが歩き出す。
 教会の奥へと進み、適当なドアを開けて、部屋の中に入った。
 セレンはパニック状態でなにがなんだかわからなかった。
 一方、落ち着き払っているライザは、ベッドに腰掛けて座って足組をした。
「久しぶりね、元気にしていたかしら?」
「え……あっ……助けてくれてありがとうございました」
 お礼を言う顔は暗い。自分を救ってくれたとはいえ、目の前でひとが死んだ。自分のせいで死んだとセレンは心を痛めていた。
「暗い顔しちゃって、アタクシがシスターになにかすると思って?」
「いえ……そういうわけでは……」
「過去にいろいろあったことは認めるわ。今回は取り引きなしに、アナタに協力して欲しいことがあるの」
「なんでしょうか?」
「単刀直入に言うわ。一匹狼さんと連絡を取りたいの」
「トッシュさんのことですか?」
「ええ」
 これまでライザとトッシュの間には因縁がある。反乱分子だったトッシュは、帝國のライザイに何度も命を狙われていた。それは本気だったかどうかはさておき。
 セレンは口を結んだ。
 それを見取ってライザは微笑む。
「教えたくないってわけね。しかし、トッシュに危害を加えるつもりはないわ。と言っても信じてもらえるかはわからないけれど」
 セレンは口を開かない。
 自虐気味にライザは鼻で笑った。
「ぜんせん信用されていないのね。べつにいいけれど嘘つきなのは認めるわ。最近も大きな嘘をついたもの。ねえ、帝國が水に沈んだあと、アタクシがどうなったか噂を耳にしたかしら?」
「死んだもの噂されていました。だから大臣も今では好き勝手に軍を率いて侵略行為を……。私はライザさんが生きているような……ほかのひとたちもそうだと思っていましたが」
「そう、生存者はひとりも確認されていないものね。だから、アタクシもそれに便乗して死んだことにして身を隠していたのよ。なのに、どうやら最近生きていることがバレてしまったらしく、いろんな敵に追われ命を狙われて、人生でもっとも最悪だわ」
 溜息を落としてライザは前髪をかき上げると、さらに話を続けた。
「どうして身を隠していたかわかる?」
「どうしてですか?」
「帝國が滅亡すれば、煌帝がいなくなれば、世間が荒れるのは目に見えていたわ。当然、アタクシを邪魔だと思う輩が狙ってくることは容易に想像できたわ。でもね、そんな奴らは小者よ、小者。あっという間にアスラ城が水の底に沈んだとはいえ、生存者が確認できないっておかしいと思わない?」
 陰謀を予感させる言葉だった。
 ライザは妖しげな笑みを浮かべつつ、その眼は鋭くなった。
「最終的には水責めで溺れ死んだ者が大半だけれど、その前に多くの兵士たちが何者かに殺され、退路という退路も断たれ破壊されていたのよ。逃げ場を失い右往左往している間に水の底」
「ライザさんはどうやって生き延びたんですか?」
「手の内はあまり明かさない主義なの。言えるのは自分一人で精一杯だったということ」
 苦虫を噛み潰したような顔をライザはした。すべて捨てて逃げたのだ。
 多くを失ったライザは新天地を求めた。
「最近、トッシュは英雄として貧困層から絶大な支持があるみたいね。彼を支えようと革命軍も戦力を伸ばしているみたいだけれど、まだまだ弱い。けれど支持する人数は多い。アタクシはべつに世界平和を願ったり、自分がトップに立って世界を支配する気なんてないわ。ナンバー2くらいが自由に動けて良いもの。だからアタクシは今後誰に付こうかと考えて、トッシュに決めたのよ。アタクシの身の安全を確保してもらう代わりに、アタクシの頭脳を革命軍に提供するわ。素敵な取り引きだと思わない?」
「本当にトッシュさんがどこにいるか知りません。連絡はたまにありますけど、各地を転々として逃げ回ってるみたいで」
「各地を転々としているらしいのは知っているわ。でも逃げ回るというのはなぜ?」
「英雄なんて祭り上げられるのは嫌なんだそうです。革命軍のリーダーになってくれとも言われているみたいですが、一匹狼が自分の性分に合っているって」
「まだリーダーではなかったのね。声明で彼の功績が伝えられているけれど、実際は各地で彼の名前が勝手に使われているだけなのね。そうだとは思っていたけれど」
 噂に尾ひれがつき、やがて英雄は神格化される。革命軍の思惑は、いかにトッシュを祭り上げ、人々を引き込んでいこうというのがあるのだろう。
「革命軍に名前を使われるだけではなくて、悪いことにも自分の名前が使われるってトッシュさんが憤っていました。ある村で自分の名前を語った偽物が、金品を要求したり、女に言い寄ったりして、腹が立ったから自ら出向いてボコボコにしてやったと、こないだの手紙には書かれていました」
「居場所がわからなくても、こちらから連絡はできるのでしょう?」
「いいえ、それがいつも一方的な連絡で」
「最近、どのあたりにいるかも見当つかない?」
 セレンは首を横に振った。
 ――突然の爆音!
 小康状態が破られ敵が攻めてきたのか!?
 急いでセレンは礼拝堂に走った。
 そして、思わずセレンは絶句した。
 燃えていた。礼拝堂が燃えていたのだ。天井には攻撃を受けた穴が空いていた。
 逃げ惑う人々。瓦礫の下敷きになった者。床に転んでいる少年。
 セレンは少年に手を貸そうとした。だが、その手はライザによって引かれ、強引に礼拝堂の外に出されたのだ。
 都市は騒然としていた。
 夕焼けよりも赤く染まる都市。
 空から次々と炎が降り注いでくる地獄絵図。
 クーロンは一瞬にして戦渦に沈んだのだった。