魔導装甲アレン3-逆襲の紅き煌帝-
「決して人間の命を奪おうと言うのではない。戦争も命を奪う為に始めたのではない。人間の思考を奪う気もない。人間が機械人になる事によって、彼らに価値観の変化が起こる事を望んだのだ」
セレンが叫ぶ。
「あなたのやろうとしていることは間違っています!」
なぜかアダムは笑った。
「戦争が起こるよりも遥か前から、私はレヴェナに話していたのだ。人間が全て機械人に生まれ変わることができれば、愚かな行いをしなくなるのではないかと? それこそが人間の為であり、自然を含む世界のためではないかと? 此の考えにレヴェナは強く反対していた、今の御前のようにな。しかし、此の計画は準備段階で実行に至らなかった」
至っていれば、今の世の中も今とは違うものになっていたはずだ。それは本当に世界のためになったのだろうか、それとも間違った考えなのだろうか。
アダムは一呼吸置いてから、再び話をはじめる。
「丁度其の頃、少数の人間たちが自分たちだけ逃げ出そうと、火星への移住計画を進めていた。既に火星にはゲートがあり、準備が着々と進められていた所に、私は機械人を率いて乗り込んだ」
そして、アダムの表情に憎悪が浮かんだ。
「しかし、それは罠だったのだ。火星に逃げ出そうと本気で考えていた人間たちも知らなかったようだ。火星に飛ばされたのは我々だった。あの忌々しいジャン博士にはめられたのだ」
ジャン博士とは、もしかしてジェスリーをつくったという?
ジェスリーやそれ以外の者も口をはさまず、話は続けられる。
「それからの事は、後に聞いたに過ぎない。火星への転送装置は破壊され、他の転送装置も全て破壊された。徹底的に私の帰路を塞いだのだ。私は残して来た機械達との通信手段すら失い、指揮系統を失った機械人は、やがて統率が取れなくなっていった。そして、混乱する機械人にチャンスとばかり人間は総攻撃を仕掛けた。禁止されていた〈メギドの炎〉と云う兵器も使用されたらしい。これで全ての機械人が滅ぼされ、地上も完全に死の大地と化した。実際には平和主義者の機械どもは、戦争前にメカトピアに建国して地下で息を潜めていた訳だが。こうして人間の衰退の歴史が始まった。形振り構わない兵器の使用により、人間を含める多くの命も失われ、我々に勝ったつもりだろうが、その過酷な環境の中で人間はさらに数を減らしていった。智識と技術もだんだんと失われていき、それが現在も続く暗黒時代だ」
ここまでが過去から現在までの出来事である。
現在の砂漠化した世界は人間の仕様した兵器のためだったのだ。
世界は枯れたまま、何千年もの月日が流れた。
そして、停滞していた世界の歯車が再び動きはじめる。
戦争は終結したが、アダムはまだ火星にいた。
「我々は火星で逆襲の準備を進めていた。しかし、還る術がなかった。機械人にとっても長い年月だった。そして、ついにチャンスが訪れたのだ。あのライザという科学者が転送装置の復元に成功してくれた。それによって私は還ってくることができたのだ。あの出来事ばかりは確立ではなく、運が良かったと言う他あるまい。ライザが転送装置を復元し、こちらの転送装置と偶然にリンクしてくれた事に感謝する」
この時代の寵児。アダムがライザを高く評価していたのはこのためだ。
しかし、すぐに戦争は再開されなかった。
「だが、還って来る事が出来たのは私ひとりだった。あくまで偶然だったからだ」
それからアダムは虎視眈々と準備を進めていたのだろう。鬼兵団のリーダー隠形鬼として。
機は熟した。
アダムが不敵に微笑んだ。
「火星には新たに生まれた100万を越える鬼械兵団がいる。彼らをなんとしても青き星に呼びたい。その願いが〈生命の実〉によって成就するのだ」
なんと100万を越える兵がまだいるというのか!?
人間にとって最悪の脅威である。
さらにあの計画もある。
「もうひとつの願い。〈生命の実〉を使って世界中にナノマシンウイルスを散布する。クーロンでの実験は成功した。あとは実行に移すのみだ」
すべてはあの小さな燦然と輝く実にかかっている。
トッシュが震える声で尋ねる。
「〈生命の実〉ってなんなんだ?」
アダムが答える。
「レヴェナが発明した究極の魔導具。この世が存在し続ける限り、尽きることのない膨大なエネルギーを生み出してくれる装置だ。元々はエデン計画の要として開発が進められていた物だったが、私の危険性を感じ始めたレヴェナは開発を中止した――と、私にも思わせていた」
〈智慧の林檎〉と〈生命の実〉を手に入れれば、月の管理システムではなく神に等しき存在になる。〈智慧の林檎〉を与えたのはリリス。はじめからレヴェナは2つを与えるつもりがなかったのだ。エデン計画には〈生命の実〉だけが必要だった。
リリスのやったことは、結果として失楽園に繋がった。
しかし、それは罪か?
ダイナマイトの発明は罪だろうか?
それが戦争に使われるなど夢にも思わなかったとしても、生み出してしまったことは罪なんだろうか?
では、アダムそのものを生み出したレヴェナには罪があるのか?
機械として生まれ、?自分?として生きようとしたアダムこそが、罪を背負うべき巨悪なのか?
片一方の主張だけで、善悪を決められるようなものではない。戦争とはそうやって起きる。
アダムは話を続けている。
「レヴェナの足跡を辿る事により、私は〈生命の実〉が完成されていた事を知り、ずっと探し求めていたのだ。まさかこの場所にあったとは、灯台もと暗しとは此の事だ。此の場所にある事はわかったが、私には此処まで来る術がなかった。同時にエデンの園への侵入は、おそらくリリスがいなければ不可能だっただろう。そして、まさか最後の鍵がアレンだったとは」
そして、先ほどの出来事に繋がった。
もう〈生命の実〉は奪われてしまった。
アダムの話も終わった。
「私は青き星に一足先に帰還する。御前達が還って来る頃には、どれだけの人間が機械人化しているか……ふふふふっ」
いつものようにアダムが霞み消える。
〈レッドドラゴン〉が吼えた。
「行かせるかッ!」
銃弾は揺らめくアダムの幻影を通り抜けた。
――歯車が唸る。
アレンがアダムの手を取った。手はまだこちら側にあって掴めたのだ。
二人が消える。
空間の中にアレンも消えてしまう。
必死な顔をしてアレンが手を延ばす。
「だれか手ぇ貸せ!」
伸ばしたアレンの手をいち早く掴んだのはセレンだった。
「捕まってくださ……きゃっ」
アダムが消え、アレンが消え、そしてセレンまでも消えた。
3人まとめて空間を転送されてしまったのだ。
作品名:魔導装甲アレン3-逆襲の紅き煌帝- 作家名:秋月あきら(秋月瑛)