魔導装甲アレン3-逆襲の紅き煌帝-
《このメッセージをあなたが見えているということは、やはり私はこの世界にはもういないということでしょう。そうなるであろうことは予想していました。もう世界はアダムに支配されてしまったでしょうか? 私はあなたに多くのことを託してしまいました。しかし、あなたにそれを告げる前に私はこの世界から消えてしまった。あなたがどこまで知っているのかわかりません。だから、はじまりから話をしましょう》
ホログラム映像に映し出されたのは、メカトピアのような街並みだった。あの場所と違うのは、そこに人間たちがいることだ。
《知っての通り、戦争がはじまる前まで、人間と機械は共存していました》
レヴェナは遠くない過去として語っているが、それは失われた時代だった。
《魔導と科学の発展は著しく、人間に替わる労働力として、アンドロイドの研究も盛んに行われました。その中で生まれたのがロボット三原則です》
ホログラム映像に文字が表示された。現在も使われている文字に似ているが微妙な違いがある。それでも読めないことはなかった。
第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。
《しかし、人間と機械の戦争は起きてしまいました。そのはじまりが月移住計画です。私たちはエデン計画と呼んでいました》
ジェスリーもエデン計画と口にしたことがある。
ホログラムで太陽系が映し出され、さらに打ち上げロケットなどの映像も流れた。
《月や火星への移住計画は昔から話し合われていたことでしたが、本格的にその計画が動き出した背景には私の開発したワープ装置があります。その関係もあり、月移住計画のプロジェクトリーダーに私は選ばれました》
隠形鬼の話とは少しだけ違う。彼は?二人?が任されたと言っていた。
《私は月面を緑溢れる環境にしようと考えました。その技術については以前つくった〈スイシュ〉が応用できると思いました》
〈スイシュ〉働きは水を生み出すだけはない。急速に成長する緑を見ればわかることだ。
《さらに月全体をフィールドで覆い、人工的に大気をつくれば、動植物が生きていけるでしょう。しかし、ただ環境をつくればいいというものではありません。人工的につくった環境は、大自然のサイクルのようにうまく機能してくれません。そこで私はこの月自体を1個の生命体として、それを管理するシステムをつくることにしたのです。それがアダムです》
レヴェナの話の途中でリリスが囁く。
《そこにある塔がアダムじゃ》
今の目の前にある塔。これが管理システムだったもの。現在はガラクタだとリリスは先に述べている。
さらにレヴェナは話を続けている。
《試験運用的に私はアダムにこの庭園――エデンの園の管理を任せました。彼はすばらしい働きを見せ、やがてその管理領域を広げていきました。その時点では、彼はただのプログラムに過ぎませんでした。しかし、最終的な目的は彼をこの月と一体化した生命とすることでした。だから私は彼に〈智慧の林檎〉を与えたのです》
またリリスが口を挟む。
《嘘じゃ、林檎を与えたのは妾じゃ。それが過ちじゃった》
その声は震えていた。悲痛だ。
ホログラムはリリスの感情など知る由もなく、ただ記憶されたままに話を続ける。
《林檎とは私の開発していた人工知能の基本システムです。それをアダムに組み込むことにより、彼は自立した自我を持つことになり、貪欲なまでに智識を探求していきました》
それはジェスリーとなにが違うのか?
リリスのいう過ちとは、なにが起きたというのか?
《私たちはいろいろなことを語り合いました。機械はどうあるべきか、人間はどうあるべきか、このときすでに私は彼の危険性について気づいていました。アダムは人間と機械人の境はどこにあるかということにこだわりを持っていました。当時すでにサイボーグ技術はありましたし、ある科学者はナノマシン細胞による人間の機械化を医療の方面から研究していました。躰の細胞をナノマシンに置き換え、負傷した躰や病気などを治療するというものです。しかし、私はそれは行きすぎた技術のように感じていました》
《ある科学者とは妾のことじゃよ》
《ナノマシン細胞技術とは、人間の機械人化ではないのでしょうか。それはもはや人間なのでしょうか? それを人間と呼ぶのなら、機械人の定義とはいったいなんなのでしょうか? アダムは私に何度も問いましたが、私は答えが出せませんでした。なぜなら私もアダムの意見に賛成だったところがあるからです。自立した機械人たちは、生命であり人類であると私は思うのです》
そう、ずっとレヴェナはアダムのことを彼と呼んでいた。1つの種として認識していたのだ。
そして、レヴェナは核心に迫る。
《アダムの目的は人類となることなのです》
レヴェナが放った一言。
ただの機械を超越した存在。
神は人間をつくった。人間は機械をつくった。
人間と機械の境界線はどこか?
《そうして起こったのがこの戦争です。私はアダムに罪はないと思っています。しかし、戦争が起きてしまったことは私の本意ではありません》
しかし、ここには疑問がある。レヴェナは先にロボット三原則について述べている。ロボットが人間に危害を加えることはないはずだ。
《アレン、あなたに機械の半身を与えたのは私のエゴです。あなたは人間と機械、どちらを選びますか? 私には選べなかった。だからあなたに選んで欲しい。選ばれたものが、この世界の未来となるでしょう》
自分に話が及んだアレンは不可解な顔をした。
「なんで俺が? 勝手に決めんなよ!」
《アダムは恐ろしい計画を実行しようとしています。有機物の生物を機械人化するナノマシンウィルスを世界中にばらまくつもりなのです》
セレンはハッとした。なにかが脳裏に引っかかった。思い当たることがあったはずだ。
それを思い出そうとしていると、思考を掻き消すような出来事が起こった。
庭園が沈黙した。
生命が失われていく。
急激に植物たちが枯れていき、灰色の世界へと変貌していく。
いったいなにが起きているのか?
《切り札として〈生命の実〉をあなたに託します。あなたが人間の味方をするのか、それとも機械の味方をするのか、最後まで見届けられないのが残念です》
アレンの足下の大地が盛り上がった。さっと後ろに退くと、地面を割って双葉が伸びてきた。それは急速に成長して、1メートルほどの木に育つと、花が咲き、そして花が枯れ、燦然と輝く小さな実をつけた。
突然、その光が消えた。
ワーズワースが実をもぎ取ったのだ。彼の手から漏れる光。
レヴェナはまだ話を続けていたが、ワーズワースの放ったカマイタチによって、塔が切断されて崩れ落ちたのだ。
ホログラム映像が消える。
一同は唖然とした。
映像が消えるとほぼ同時にワーズワースも消えようとしていた。
作品名:魔導装甲アレン3-逆襲の紅き煌帝- 作家名:秋月あきら(秋月瑛)