魔導装甲アレン3-逆襲の紅き煌帝-
13歳という若さで帝位して間もないルオがした所業を人々は忘れていない。
――串刺し刑が観たい。
その一言で女子供関係なく生きたまま串刺しにされた。
今のルオはそのころとは別人だというのか?
それとも記憶喪失が起こした気まぐれに過ぎないのか?
〈黒の剣〉を操るルオの眼前に拳が現れた。
アレンの強烈なパンチだ!
〈黒の剣〉がトッシュの相手をしている一瞬の隙に、アレンがルオの懐に入っていたのだった。
骨の砕ける音。
顔面を拳で抉られながらルオは遥か後方10メートル以上飛んだ。
何度も地面に転がってルオは立ち上がった。その顔は明後日の方向を向いている。首がへし折られていたのだ。
普通の人間ならば頸椎を損傷して死んでいる。
だが、ルオは生きていた。
ボキボキと首を鳴らしながら、自らの頭を手のない手首と、もう片手で動かし元の位置に治した。その手首を失った手も、驚くべきことに徐々にだが再生している。
「朕を殴ったな!」
怒号を飛ばすルオの眼が燃える。
「許さんぞアレーーーンッ!!」
記憶が戻った!
叫びながらルオは手元に戻ってきた〈黒の剣〉を片手で握り、烈風のごとく薙いだ。
大地が削れる。
衝撃波が近くにあった丘をも破壊した。
瞬時に身を伏せていたトッシュはもう立ち上がることができない。
「マジかよ、ヤバすぎるだろ……生身で相手するもんじゃねえ」
衝撃波をアレンは上空に飛んで躱していた。
ルオは的に狙いを定める。
再び〈黒の剣〉が薙がれようとしたとき、世界に輝く3本の槍が放たれた。
〈ピナカ〉だ!
すぐさまルオは〈黒の剣〉を盾にした。
それで防げたのは1本だ。残る2本の閃光は、まるで生き物にように動き、〈黒の剣〉ごとルオを絡め取ったのだ。
「グァアァァァァッ!!」
ルオの絶叫。
黒こげになったルオが地面に倒れた。
なんと、すぐさまセレンがルオに駆け寄って地面に膝をついた。
「だいじょうぶですか!?」
息はあった。胸に触れると、火傷しそうなほど熱くて、セレンは小さく悲鳴を漏らして手を離した。
だれがいったい〈ピナカ〉を放ったのか?
セレンはその後方を見た。
銃口をこちらに向けたまま動かずにいたのは、ワーズワース。
「ああっ、ワーズワースさん!」
悲鳴にも似た声をセレンはあげた。
ワーズワースは歩み寄ってセレンを抱きしめた。
「よかった……生きていて」
「ワーズワースさんこそ……本当によかった」
涙を浮かべるセレン。
感動しあうふたりだったが、すぐそばで幽鬼のように影が立ち上がった。
「まだ朕は負けて……おらぬ……」
しかし、もう立っているのもやっとだった。
ルオの躰から立ち上がる湯気。
膝が崩れ倒れそうになったルオを支えたのはワーズワースだった。
そして、彼はルオの耳元で囁いたのだ。
「〈黒の剣〉の秘密、知りたくはありませんか?」
「ッ!?」
「なにも言わないでください、これは僕と君の秘密の話ですから。興味がおありでしたら、今は大人しくしていてください」
ワーズワースは密かに手に圧縮した空気を溜め、それをルオの腹に撃ち出した。周りの者たちには秘密にしている風を操る能力だ。
気を失ったルオを担いでワーズワースが運ぶ。
「飛空挺に戻りましょう。彼の手当もしてあげないと。〈黒の剣〉はだれか運んできてくれますか?」
〈黒の剣〉は静かに地面で横たわり沈黙していた。
小川のせせらぎが聞こえる芝生の上に隠形鬼は立っていた。
空間が波打った。まるで這い出してくるように、そこから人の手が見て、躰や顔が見えた。
一瞬にして、辺りの景色が無機質な金属の部屋に変わる。
今までそこにあった光景はホログラムだった。そのホログラムの中にフローラが入ってきた。そして、ホログラムのスイッチを隠形鬼が切ったのだ。
「風鬼[ふうき]から連絡がありました」
「風来坊メ、ヤット連絡ヲ寄越シタカ」
鬼兵団というものが、当初の目的通りにもはや動いているとは思えない。そのメンバーに名を連ねていた者たちも、全員が隠形鬼の企みを知っていただろうか?
隠形鬼、水鬼、金鬼、土鬼、火鬼、木鬼、そして最後に残っていたのが風鬼。
「リリスたちは月に向かうとのことです」
「ヤット扉ヲ開ク気ニナッテクレタカ。アノ場所ニ最後ノ希望ガ在ル。我々ヲ勝利ニ導ク希望ノ光ダ」
ヒールの音が金属の床に響いた。
「ねぇねぇ、アタクシにそのお話詳しくしてくれないかしら?」
現れたのはライザだった。その失われていたはずの腕は、金属の腕に機械仕掛けに替わっている。
「嘗テ、二人ノ優秀ナ科学者ノ姉妹ガ居タ。二人ハ月移住計画ヲ任サレ、アノ不毛ノ世界ヲ緑溢レル環境ニ変エ、星其ノ物ヲ自立サセヨウトシタノダ」
「この星と同じような自然のサイクルを月に再現しようとしたということかしら?」
ライザの問いに隠形鬼は仮面の奥で不気味に笑った。
「フフフフッ、否」
すべての謎は月にある。
作品名:魔導装甲アレン3-逆襲の紅き煌帝- 作家名:秋月あきら(秋月瑛)