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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン3-逆襲の紅き煌帝-

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 なぜかジェスリーはなにか言いたげな瞳でリリスを見つめていた。その眼は不満だ。
 しかし、ジェスリーは語らなかった。別のことで口を開いた。
「わたくしがお話したかったのは、隠形鬼の正体についてだけです。もうお話はありません」
 リリスはアレンに目を向ける。
「アレン、おぬしが行くべき場所は決まっておる。ある者から伝言があってな、そこに行けと言っておった」
「そこになにがあんだよ?」
「妾も知らぬ。しかし、おそらくこの戦いに関することじゃろう。どうやらおぬしは重要な役割を託されておるらしい」
「なんだよそれ、めんどくさい。で、どこだよそこ?」
 リリスは口ではなく、視線でそこを示した。天井だ。おそらくもっと先、空の上だ。
 どこがどこだかジェスリーは気づいたようだ。
「もしやエデン計画では!?」
「そうじゃ、目的地はエデンの園――つまり月面じゃ」
「はぁ〜〜〜っ!?」
 声を揺らしながらアレンが叫んだ。
 さらにアレンはこう続けた。
「あれって空に浮かんでるちっこい石ころだろ?」
 ジェスリーはリリスと顔を見合わせて笑った。
 この時代に月に行くなど夢のまた夢。教養のない者は、それが衛星だということも知らない。中にはこの星が月と同じように丸いことすら知らない者もいるだろう。今はそんな時代だった。
「月はこの星の約4分の1ほどの大きさがあります。決して石ころなどではありません」
 ジェスリーに説明されて、アレンは別のことで驚いた。
「昔のひとってすげえな。そんなデカイもん空に打ち上げるなんて」
 魔導かなにかの力で浮いているのだとアレンは思ったらしい。
 リリスは大きく息を吐いた。
「もう話はおしまいじゃ、ほかの者を呼んでおいで」
「俺が残された意味あったわけ?」
「おぬしと妾は運命を共にしておると言ったじゃろう?」
「それキモイ」
 アレンは逃げるように部屋を出て行った。
 残された二人。
 ジェスリーの表情は神妙だった。
「なぜ話さなかったのですか?」
「なにをじゃ?」
「アダムに智慧を与えたのは、あなただということです」
 いったいそれは誰の名か?
 その者に智慧を与えたとはどういうことか?
 リリスが囁く。
「知っておったか……」
「ええ。まだ名乗っていませんでしたが、わたくしの名前は、ジャン・ジャック・ジョンソン。わたくしをつくった科学者の名前をもらいました。そして、ジャンは……そう、あなたのお姉さんの婚約者の名前です」
 姉の名は――レヴァナ。

 黒い燃えかすの山を歩くワーズワースの前にトッシュが現れた。
「奇遇ですねトッシュさん」
 訝しげな顔をするトッシュ。
「なにしてるんだ?」
「そっちこそなにしてる?」
「ちょっと探しものを……でも、たぶんここにはないような気がするんですよねぇ」
「俺様もそう思う」
 そう、二人は同じものを探していた。
 火鬼によって焼き払われた革命軍の駐屯地跡。
 ほとんど原形を留めていない。人間の屍体すらも――。
 トッシュはワーズワースの目頭が光っているのを見てしまった。
「泣いてるのか?」
「えっ?」
 言われてワーズワースは驚いたようだ。指で目を拭って自分が泣いていることに気づいた。
「本当ですね、なんででしょう涙なんて……」
「なあ聞いていいか?」
「なんですか?」
「シスターに惚れてるのか?」
 ワーズワースは笑った。
「ははは、まさっか〜。そういうのじゃないですよ。トッシュさんこそ、セレンちゃんのことどう思ってます?」
「それって恋人にしたいかって意味か? 俺様とはちょっと年の差だろ」
「恋愛に歳なんて関係ありませんよ。僕が昔好きだったひとは、100歳以上歳が離れてましたよ?」
「は?」
「冗談ですよ、あはは。で、セレンちゃんのことどうなんです?」
「妹みたいな存在だ」
「僕も似たようなものです」
 愁いを帯びた顔をワーズワースはしていた。そこから感じられるセレンへの想い。彼はいったいどんな想いをセレンに抱いているのだろうか?
 ワーズワースは腰を伸ばして、汚れた手をパンパンと合わせながら叩いた。
「重大発表しちゃってもいいですか?」
「なんだ?」
「じつはですね……フローラさんっているじゃないですか?」
「…………」
 急にトッシュは黙り込んだ。
 その反応を見取ってワーズワースは、
「やっぱりやめましょう」
「言え」
 鋭く脅すような口調だった。
「言います言います。でもかる〜く流してくださいね」
「早く言え」
「じつは元カノなんですよねぇ〜、あはは」
「…………」
 トッシュが無言で〈レッドドラゴン〉を抜いていた。
 冷や汗を流すワーズワース。
「い、1ヶ月も保たずに別れたんですよ。なんていうか、どうして付き合ったのかわからない感じの自然消滅で」
 トッシュは銃をしまった。そして、真剣な眼で、相手を射貫くような鋭い眼でワーズワースを見つめた。
「ひとつ聞いていいか?」
「なんですか?」
「もしかして、フローラが隠形鬼の仲間だって知ってたんじゃないだろうな?」
「あはは、まっさか〜。帝國の飛空挺で会ったときはビックリしちゃいましたよ、久しぶりに会ったんで。偶然ってホント恐いですよねぇ」
 おどけたように言いながら、ワーズワースを地面でなにか光るものを見つけた。
 煤の中から拾い上げたそれは、十字架のペンダントだった。
 ワーズワースの顔が見る見るうちに凍りつく。
「セレンちゃんのです」
「まさか……そんなネックレスしてたか?」
「普段は服の中に入れてるんですよ。たしかにこれはセレンちゃんのです」
 煤を丁寧に指先で拭き取る。すると、そこに刻まれた文字が浮かび上がってきた。
 刻まれていた文字は――?
 ワーズワースはペンダントを大事にしまった。
「トッシュさん……」
「なんだ?」
「なにがあっても、とりあえず僕のこと信じてくれませんか?」
「どういうことだ?」
「……飛空挺に戻ります」
 影を背負いながらワーズワースは立ち去った。