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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン3-逆襲の紅き煌帝-

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「おまえさんの顔、どっかで見たことあるんだよなぁ? 村の坊主……にしては、高価な服着てやがったな。俺がお偉いさんの息子を見る機会があるとしたら、軍人だったころだが……」
 どんどん近づいてくるオヤジを嫌そうに少年は顔を背けた。
 急にカイがはしゃぐ。
「父さんは帝國の軍人だったんだ。すっごい強かったんだぞ!」
「出世はしなかったがな、する気もなかったんで引退して、今は人里を離れて農場を経営してるんだ」
 少し自慢そうに父親は鼻を高くした。農場経営が順調なのだろう。
 なにかが引っかかったのか、少年は難しい顔をして小さく呟く。
「……帝國」
 父親の耳にも届いたようだ。
「帝國っていったら、シュラ帝國に決まってるだろう。嫌われたり畏怖されたりしてたが、帝國のお陰でなんだかんだ言って国は豊かだったんだ。それが今じゃ……治安は悪くなる一方で、世界中で暴動やら戦争が起きてやがる。この怪我もそのせいで負わされたんだ、村にどっかの武装団が攻めてきてよ」
 世間では革命家トッシュの英雄譚と語られている。
 だれがあのシュラ帝國が滅亡することを予想しただろうか?
 あまりにも突然で、世界中のだれもが信じがたい出来事であった。
 鋼の要塞アスラ城が水に沈み、城にいた者で生存を確認された者は、今のところひとりもいない。
 独裁国家であるシュラ帝國にとって煌帝は絶対的な存在であった。さらに実質的な国内ナンバー2だった?ライオンヘッド?を失ったのも大きい。
 すぐにシュラ帝國は分裂し、国として維持ができなくなってしまった。そして、世界最強の軍事国家がなくなったことで、諸国のパワーバランスが崩れ、各地で戦乱が起きはじめたのだ。恐怖政治を敷き、他国から畏怖されていた帝國がなくなったことで、逆に世界が乱れるとは皮肉な話だ。
 部屋にクリーミーな匂いが漂ってきた。
 父親はクンクンと鼻を動かした。
「そういや、今日はシチューだとさ。うちのカミさんのシチューはうまいぞ、乳もウチで搾ったもんだ。たんまり食って早く怪我なんて治しまいな!」
「それはこっちのセリフだ」
 少年は鼻でクスりと笑った。悪意のない、純粋な笑みだった。

 記憶喪失の少年が目を覚まして、数週間がの日数が経った。
 今でも記憶は戻らない。
 名前がないのでは不便だと言うことで、アレクサンダーと名付けられ、愛称はアレックスにされた。アレックスがなぜだと尋ねると、父親は昔飼ってた犬の名前だと答えた。それを聞いたアレックスは不満そうにしたが、その犬がとても優秀で家族から大層可愛がられていたことをラーレに聞かされると、とくに文句を口にすることもなくなった。
 アレックスは家族として、この家に迎え入れられたのだ。
 父親のアントン、母親のシモーネ、姉のラーレ、弟のカイ。アレックスの年齢はわからなかったが、とりあえずラーレの弟、カイの兄として扱われることになった。
 農場では多くの山羊を飼っていた。この毛色の黒い山羊たちから、毛を刈り取り、さまざまな材料とし、その乳は食用として飲むだけでなく、チーズやバターなどの加工品になる。
 晴天のもとで山羊の乳を搾っていたラーレのもとに、アレックスが松葉杖を突きながらやって来た。
「なにか手伝うことはないか?」
「無理しないで休んでいてください」
「世話になっている分は、なにかするよ」
 アレックスの言葉遣いは、時が経つにつれて当初よりも、くだけてきていた。
 怪我が治りはじめ、身体が動かせるようになってから、アレックスは積極的に身体を動かした。その中で農場の手伝いもするようになっていた。
 風が吹いた。
「いい匂いですね」
 ラーレの言葉にアレックスは、不思議そうな顔をする。
「なにがだい?」
「草の匂いです。見てください、川岸に草が生えはじめたんです。この辺りは乾燥地帯で、草木はあまり生えていなかったのに」
「なぜ生えるようになったんだい?」
「理由はわかりません。川の増水が治まって、水が引いた場所に草が生えはじめたんです。びっくりするくらい急激に成長して。村で話を聞いたんですけど、各地でそういうことが起きてるみたいで、場所によっては森が現れたとか……びっくりするけど、草木で大地が溢れるのはなんだかうれしいです」
 これまで世界は砂漠に被われていた。
 砂漠といっても、砂だけの世界や岩や連なる崖など、その深刻さは地域によってさまざまだった。
 シュラ帝國のアスラ城があった場所は、まさに灼熱の地獄であり、城以外は砂だけの世界だった。しかし、現在ではその周辺は巨大な湖となり、そこから各地に流れる河の周辺には草木が生い茂っている。人々はそれを奇跡と呼んだ。
 生きるのに必要な大切な水資源。だれもが手放しで喜んだ。些細な異変などだれもが目をつぶった。
 ミルクを湛えたバケツをラーレが持ち上げたのをアレックスが見た。
「持っていくよ」
「いいです、片手じゃ大変ですから」
 右腕はギブスで固定されている。左脚は松葉杖を必要とし、液体の入った重たいバケツを持つには不安が過ぎる。
「持つと言っているんだから、朕が持つ」
 少し強い口調で言われた。
「わかりました……しっかり持ってくださいね、気をつけて」
 ラーレはバケツを持った手を差し出した。そして、バケツを受け取ろうとしたアレックスの手を触れあった。
 ほのかに頬を赤くしたラーレ。それを見て、つられるようにアレックスも頬を赤くした。
「行くぞ」
 無愛想に行ってアレックスが、バケツを持って歩き出そうしたとき、大きくバランスを崩してしまった。バケツの中で飛び跳ねたミルクが地面に溢れる。
 やはり怪我をしたアレックスでは――違った。
「きゃっ!」
 叫び声をあげたラーレが倒れて地面に手を突く。
 大地が呻いた。
 轟々と激震が一撃大地に奔ったのだ。
 山羊の群れが逃げていく。
 鋭い眼をしたアレックスの視線の先には、大地を穿った大穴から硝煙が立ち上っている。それは天災などではなく、明かな人工的な攻撃だ。
 微かに足から伝わってくる振動。
 地平線の向こうから隊を成してやってくる。軍隊だ、武装した軍隊が進撃してきたのだ。
 叫ぶアレックス。
「家族に知らせろ、早く行け!」
「でも置いては……」
「だからこそ怪我のしてない君が行け、明かな敵意を持っていると家族に早く伝えるんだ!」
 ラーレは唇を噛みしめ、後ろ髪を引かれながら家に向かって駆け出した。
 軍隊の前衛は巨大な飛べない鳥――クェック鳥に跨った騎鳥部隊だ。兵士だけでなく、クェック鳥も軽鎧[けいがい]を装備している。兵士の装備は銃剣だ。
 その後ろからは戦車部隊。砲台をこちらに向けている。
 ひとり残されたアレックスはなぜか笑っていた。
「なぜだか……血が騒ぐ。この躰がなにかを覚えているとでもいうのか……?」
 少年とは思えない悪魔の笑み。
 波乱を予感させた。