魔導装甲アレン3-逆襲の紅き煌帝-
第2章 鬼械兵団(3)
飛空挺を手にいれたトッシュたちは、セレンを駐屯地に残し、戦場に向かっていた。
全長25メートルほどの影が紅い空を翔る。
ライザが開発した小型飛空挺〈インドラ〉の見た目は飛行船に似ているが、その動力は魔導式でありフォルムも金属できている。小型の特徴を活かし、高速での飛行も可能で、機動力も高い。
メインルームである操縦室に、トッシュ、ライザ、ヴィリバルトがいた。ほかに革命軍の兵士が数名いる。
ライザがレーダーのモニターを見つめた。
「前方から帝國のB式戦闘飛空機が3機。チームネームは〈バイブ・カハ〉。3機での戦術を得意とするわ」
敵の飛空機はプロペラ式だ。速度は〈インドラ〉が遥かに疾い。
飛空挺の操縦はライザに任されている。ほかにできるものがいないからだ。幸いこの飛空挺は元々ひとりで操縦できるようになっている。
座席に腰掛けながらライザは円形のハンドルを片手で面舵いっぱいに回した。
船首が右舷に向き、急旋回をする。
立っていたトッシュたちがバランスを崩して倒れそうになる。
次は取り舵いっぱいだ。
船内は右へ左へ傾き、悲鳴にも似た声が響く。
「もっと丁寧に操縦できないのか!」
叫んだのトッシュだった。すかさず口元を抑える。
「ううっぷ、吐きそうだ」
どうやら酔ってしまったようだ。
構わずライザは荒い操縦を続ける。
〈インドラ〉が天に昇るように、船首を上に向けながら上昇する。追尾してくる3機。
「撃ちやがったわ」
ごちたライザはモニターを見ていた。ホーミングミサイルだ。
「魔力探知式よ。つまり対魔導兵器用のミサイルね」
そして、なんとライザはエンジンを停止させたのだ。
急降下する〈インドラ〉。ぶつかりそうになった飛空機のほうが、弾けるように散らばって避けてくれた。
船内は90度に傾き、躰を固定されていない者たちが落ちていく。その悲鳴を聞きながらライザはニヤリと笑った。
地上と飛空機に挟まれた形になった〈インドラ〉。
「あぁン、イクわよ。ヴァジュラ砲弐式発射ッ!!」
あと一秒も残さず地面に衝突する寸前、〈インドラ〉の船首と船尾から魔導砲が発射された。
まるでそれは無数の稲妻だった。
稲妻の脚を地面につけ船体を支えると同時に、船首から発射した稲妻たちが飛空機たちを絡め取るように撃ち抜いた。
ゆるやかにプロペラを止まった飛空機が次々と墜落していく。
〈インドラ〉の?足下?で3つの爆風が起きた。
そのまま〈インドラ〉は通常の飛行に戻った。
操縦室の床に両手をつくトッシュの姿。かなり顔色が悪く蒼い。
「おまえの運転する車には絶対乗らん。乗り物全部だ……ううっぷ」
頬を膨らませてトッシュはどこかに駆け込んだ。
ヴァリバルトも疲れたように腰に手を当てて、あまり顔色がよくなかった。
「操縦はひどいが、それを可能にした凄まじい機動力だ。それに今の兵器は……神の所業」
「そのとおり、神のいかずちよ。まあアタクシにとっては、お・も・ちゃ・だけれど」
神をも畏れない艶笑。
やがて〈インドラ〉の眼下に戦場が見えてきた。
騎鳥兵が戦場を走り回り、歩兵が銃を乱射し、弾切れになった兵士同士がナイフで斬り合っている。戦車の大砲が轟音を鳴らした。
大臣陣営の仮屋に〈インドラ〉の影が差す。
ライザはコードレスマイクをトッシュに投げ渡した。
「適当に場を治めて」
「は?」
というトッシュの声が戦場に響いた。
電波ジャックがされ、すべてのマイクからトッシュの声がしたのだ。
慌ててトッシュは咳払いをする。
《んっ、んっ……あーあーマイクテスト中》
戦場に似合わない緊張感のなさだ。
《俺様の名前はトッシュだ》
その名前のインパクトは戦場の動きを一時停止させるものだった。
本物か偽物か、兵士たちにそれを判断する術はなかったが、空に浮かぶ謎の飛空挺は兵士たちの気持ちを促した。
〈インドラ〉の船首から発射された稲妻が、龍となって空で吼[ほ]えた。
ライザが放送に割り込む。
《次は地上に向けて撃つわよ。アタクシの声が誰だかわかるかしら、ビュルガー軍事大臣?》
すぐに地上から通信要請が入ってきた。
ライザは船内のスピーカーに流した。
《まさかあなたが生きていようとはライザ博士。しかし、なぜ帝國の一員であるあなたが、トッシュなどという男といるのかね?》
渋い鉄の響きを持つ声だ。
「なぜって、アナタが帝國の裏切り者だからに決まっているからでしょう。シュラ帝國の軍は煌帝のものよ。一介の大臣が私物化するなんてイイ根性してるじゃなぁい」
ライザは人差し指でスイッチを押した。
落とされたいかずち。
大臣陣営の仮屋が刹那にして黒い灰と化した。
両軍の兵士たちは震撼した。
再びトッシュがマイクを取る。
《あーあー、ってなわけで、両軍共に降伏して欲しい》
「両軍だと!?」
叫んで声を挟んだのヴィリバルトだ。
《で、俺様の指揮下に入って共に同じ敵と戦って欲しい。敵は人間じゃ――》
トッシュの声を囁いて遮るライザ。
「真下から高エネルギー反応よ」
次の瞬間、地上から放たれた魔導レーザーが〈インドラ〉を貫かんとした。
展開されていた防御フィールドで直接の損傷は免れたが、衝撃はすべて緩和できずに船体が斜めに傾いて激しく揺れた。
操縦室の前方に取り付けられた巨大モニターが地上を映し、その映像をズームアップされていく。
黒い瓦礫の中から這い出してきたのは、人型有人兵器だった。
全長は15メートル強、人型であるが寸胴で脚がない。胴の部分から円錐状に広がっており、浮遊型を採用している。右手にはバルカン、左手には魔導レーザーを搭載していた。
戦場に投入された新たな兵器を確認してライザは嫌そうな顔をした。
「見たことのない型だわ。大臣め、アタクシの知らないところで秘密裏に発掘しやがったのね」
ロストテクノロジー兵器。
秘密裏にという点では、ライザも飛空挺を独自に開発していた。二人の違いは、ライザは一からロストテクノロジーを再現できるレベルに到達しており、大臣は発掘で手に入れるしかない点だ。いや、自力開発はこの時代の科学者では、ライザ以外にできる者がいるかどうか。
有人兵器に乗っていたのは大臣だった。
《許さんぞライザ。わしが新たな煌帝だと証明してくれる!》
革命軍に向けて放たれた魔導レーザー。三日月を描きながら世界を焼き尽くす。
風と炎と煙。
そして、死の叫び。
叫び声をあげたのは革命軍だけではなかった。
大臣軍が大地に飲まれていく。
呻き声をあげた大地に走った深い亀裂。
乾いた大地が暗く染まっていく。水だ、水が滲み出している。ぬかるんだ大地に足を取られる兵士たち。
突如、地面から伸びた太い槍。兵士が軽鎧ごと腹を貫かれた。違う、槍ではない――樹木だ。
蛇のようにうねり狂う樹木が次々と大地からせり出し天に伸びる。
モニターで現状を見ていたヴィリバルトの瞳を染める絶望。
「な……なんなんだあれは?」
もはやただの植物ではない。武器だ。兵器だった。
両軍無差別に傷つき倒れていく。
作品名:魔導装甲アレン3-逆襲の紅き煌帝- 作家名:秋月あきら(秋月瑛)