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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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Saying Parting Indirectly

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『彼』と出会ったのは店でだった。

俺の働いてるクラブ、『stand heven』俗に言う、ホストクラブだ。
そこに来た一人の客。
その日は金曜日で、客足が絶えなかった。
彼が入ってきた瞬間、店の入り口に並んでいるホスト見習いが全員でいらっしゃいませと声を上げる。
彼は見習いホスト達に見向きもせずにカウンターへ向かった。
「いらっしゃいませ、ご指名はございますか?」
カウンターにいるウエイターが彼と向かい合う。
彼が、俺を指名したのは、本当に、ただなんとなくだけだったと思う。

ホストクラブに男が来るのは珍しい事ではない。
というよりも客の3~4割は男だ。
うちの店のように表通りにない店は足を運びやすいのだろう。

見習いホストの一人が彼を席まで案内するとすぐに俺を呼びに来た。
俺はただ、指名された席へ行き、客の相手をするだけだ。

「こんにちは。」
まず、そう声をかけて隣に座る。
そこから話が始まった。
彼の話は、聞いてて面白かった。たまに逆に口説かれている気さえしてくる。
本当は俺が相手をキモチヨクしなければいけないのに、立場が逆になってるようだった。

その次の金曜日も彼は来た。

その次の金曜日も。
彼といる時間は、心地よかった。長い勤務時間の中での唯一のオアシス、そういっても過言でなかっただろう。
そして、その3回目の金曜日、俺の携帯の電話番号を渡した。
「何曜日が休み?」
彼がそう聞く。
「休もうと思えば、いつでも。」
お互いに耳の傍で囁く。
「じゃあ、そのうち電話する。」
「楽しみにしてる。」
嘘でないこの言葉を久しぶりに言った気がする。
口先だけでのその言葉なんて今まで幾度となく連発してきたけど、久しぶりに本心から楽しみだと思った。
・・本当に彼がかけてきてくれる可能性は薄いけれど。


それからはもう、金曜日に彼は来なくなった。
携帯の番号を渡したコトも、彼の存在さえも忘れかけていたある日、携帯の着信音が鳴った。
サブディスプレイに写る知らない電話番号にもしかして・・という期待が生まれる。
「もしもし?」
『私、でわかるかな?』
充分だった。期待をしないようにと頑張りながらも待ち望んでいた電話なのだから。
「充分。金曜日の人でしょ?掛けてきてくれないと思ってた。」
『どうして?』
「そのうち、とか言ってたし、名刺の扱いおざなりだったからさ。」
『お見通し、か。確かに、あの時は掛ける気はなかったよ。』
「ま、それは結局掛けてきてくれたってことでどうでもいんだけど、何か用があったんじゃないの?」
『そう、突然でわるいけど、今晩会えないかな?』
「良いよ。何時にどこ?」
『今晩9時以降にホテル、エヴァ。場所はわかるかい?』
「大丈夫。」
『603号室で待ってるから君がこれる時間になったら来てくれればいい。それじゃあ』
「また今夜。」
短い電話だった。
それにしても直球だ。
普通の客はどっかのバーで待ち合わせて、酔わせてから抱こうとする。
まあ、女性客相手のときも俺が同じ手を使うから、大体それがベッドへ誘うためのメジャールートなんだろう。
いきなりホテルで待ち合わせとは、直球もいいところだ。
相手が彼でさえなかったら、適当な理由を付けて断っていたかもしれない。


作品名:Saying Parting Indirectly 作家名:律姫 -ritsuki-