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花束を持つ手にはナイフを

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 いや、この男のことだから、はじめから見越した上でやっていたのもかれしない。
 高部は再三、現場復帰しないかと誘われてもいた。一度すっぱりとやめたら、もうやるつもりはなかった。しかし、久しぶりに思い出す現場の雰囲気は高部の体をいやおうなく刺激した。血を見ることが、人の肉を断つことが、人を殺すことが高部は大好きだ。悪党を殺すことはもっと好きだ。しかし、高部は、これは異常であることぐらい知っている。
「まぁ万事うまくいったしな。……営業に戻るか?」
 片桐が高部の心を見透かすように聞いてきた。高部は、一瞬言葉に詰まり片桐を睨みつけた。
「お断りします」
 この男にいいように使われるのはごめんだ。

 その日は、結局はフウマの本社の仮眠室で高部は夜を明かした。朝になって、高部は携帯で家に電話をいれた。敦子はすぐに出てくれた。
「あら、どうしたの」
「いや、昼には帰れそうなんだ」
「あら、そうなの。よかった。今日は土曜日だから、小夜を連れて食べに行く? あの子、昨日、とっても元気なかったのよ」
「病気か?」
「あなたがいないからでしょ。あの子、なんだかんだいって父親っ子だから。寂しかったのよ」
 その言葉に高部は自然と口元が緩むのがわった。単純だということはわかっているが、こればかりはどうしようもない。娘がいて、妻がいる。あの家が恋しい。それは血肉が踊る現場とはまるで違うが、そこが今の高部の一番かえりたいところだ。
「すぐに帰るよ」
作品名:花束を持つ手にはナイフを 作家名:旋律