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二度、告白を。(ふたたび、こくはくを。)

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「言った言った!」「やりやがった!」
 呆然と立ち尽くす私から、揶揄を含んだ笑い声と足音が遠ざかっていった。

   ◇ ◆ ◇

「えぇっ!?」
 驚きの声と共に勢いよく立ち上がった私に、友人の千恵が人差し指を唇に当てた。私はハッと席につき、身を縮こませて千恵に顔を近づける。
「リコ、声おっきいよ」
「ご、ごめん……。でも、マジで?」
「うん、マジな話」
 照れくさそうに頷く千恵に私は大きく感嘆の溜息を吐いた。気分を落ち着かせようと、お気に入りのリンゴ酢(果汁20%ジュース)のストローをくわえる。
「それ酸っぱくない? どこぞの学校では罰ゲームで買わされてるらしいよ」
「えーこの酸っぱさがいいのにー」
 女子高であるM高に入学して二ヶ月目の六月、第二月曜日。桜もすっかりピンクから緑になったホームルーム前の朝一に、私は友人に彼氏が出来たことを告げられた。リンゴ酢を吸って、私は千恵の目を見つめる。
「そ、それで? お相手は誰?」
「んと、土曜にお姉ちゃんの大学のオープンキャンパス、行ったでしょ」
「うんうん」
「校内案内役の瀬野って人、覚えてない?」
 眼鏡越しに千恵の期待した眼差しを受ける。私は一昨日の記憶をひっくり返すも、案内役だった男子学生の顔を思い出せなくて首をひねった。案内されたことは覚えてるけど、かすかな校内の印象しか残ってない。そんな私の様子に千恵はちょっと落胆したようだった。
「ご、ごめん。こ、告白は? どっちから?」
「向こうから。帰り際にアンケート書かされたでしょ。それと交換でメアド書いたメモを渡されたんだ、『よかったらメールして』って」
 それには気付かなかった。多分、私がパンフ類を鞄に入れるのにもたついていた時の出来事なんだろう。
「それで、メールしたんだ?」
「う、うん、結構タイプだったし……」
「そんなに格好よかったかな?」
「あ、それ失礼。リコは異性に鈍感すぎるよ」
 顔を思い出せない私には千恵の好きな異性のタイプがわからなかった。いずれわかることだろうけど、何とも惜しい。
「『今日はありがとうございました』って送って、やりとりしてる内に……」
 そこで口ごもる千恵に「告られた?」と尋ねるとこくりと頷かれる。
「で、いきなり翌日デート?」
「まあ、休みだったし」
 特に乱れた様子のない黒髪を千恵が耳に掛け直す。照れ隠しだと一瞬でわかった。
 私の質問はとりあえずネタ切れだ。私は部活のために伸ばしている髪をいじくりながら背中を伸ばした。
「でも、メールで告白かぁ……私は直接がいいなぁ」
 正直な感想に千恵が笑った。彼氏の出来た余裕ってやつか。
「名前は何ていうの?」
 すると千恵はごちゃごちゃとストラップのついたケータイを取り出した。
「これ」
 差し出されたケータイの画面は、件の告白メールではなく、アドレス帳だった。
「瀬野、正行……?」
「はいおしまいっ」
 声に出されたのが恥ずかしかったのか、千恵はそれだけでケータイの蓋を閉めてしまった。そしてそのまま電源は切らずに鞄に突っ込む。千恵は堂々と校内でケータイを開ける人間だ。委員長である千恵ですらそうなんだから、教室内では普通にケータイでメールのやりとりがされている。校則通り電源を切っている人間なんて、教室内、いや校内探しても私ぐらいなもんだろう。私は一度も校内でケータイを使ったことはない。うちが厳しいのか世間が緩いのかはよくわからない。
「正しい行い、かぁ……」
「え?」
「彼氏さんのお名前。全く、完敗だよ……きっと真面目な千恵にお似合いだ……」
「真面目さでいえばリコのほうだと思うけどねぇ」
 くすくす笑う千恵が幸せそうで、まあいっかと笑い合う。別に私は千恵の親でもないし、友人の彼氏にケチつける権限なんて最初からない。
「おめでと、喧嘩したら愚痴聞いてあげる」
「ありがと、そうならないよう努力する」
 予鈴のチャイムが鳴り響いた。私は借りていた席から立ち上がり、空になった紙パックを持って自分の席へと戻っていった。

   * * *

 先輩にはお辞儀しながら、同輩には手を振りながら挨拶して、駅まで十分の道をひとり歩く。部活終わりの帰り道、私は千恵の幸せそうな顔を思い出していた。朝だけじゃなく、授業中も放課後も、どこか隙のある顔。それはキリッとした千恵の印象を少しやわらかくして、クラスメイトの目には映ったことだろう。羨ましいな、と今日何回目になるかわからない溜息を吐く。
「あ、あの!」
 駅まで直進十メートルの角を曲った時、ふいに声をかけられた。私のことか? と顔を上げると、目の前に学ランの眼鏡男子が立っていた。
「神宮則子さん、ですよね?」
 フルネームを呼ばれ、神宮という姓を県外に住む千恵に「神社住まい?」と驚かれたことを思い出した。地元では普通なんだけど。そんな私を他所に彼はびっと背筋を伸ばした。
「おれ、いや、ぼく、森本高志っていいます」
「はあ……」
 詰襟に校章が光る。金と臙脂色した菱形だけど、あいにく世間、というか恋愛事に疎い私はどこの学校出身者かわからなかった。森本高志と名乗った男子は、顔を赤らめ、大きく深呼吸をした。そしてクエスチョンマークでいっぱいの私に向かって告げた。
「好きです! 付き合って下さい!」