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コーンスープのお返し

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「決まりって、あのさ、哉子……哉子っ?」
「なぁによ」
 ふわりと両手が肩から腕に降りて、一瞬で引き寄せられて、哉子のつけているらしいシトラス系の香りがして、混乱と憤慨とやわらかさとで眩暈がして、抗わなければと思って、でも身体からはとっくに力が抜けて、哉子の中にあゆむがあずけられていて。
「真城さんのこと、どうするの!」
「それはあとで考えるから、いまは大人しく抱き締めさせてよ」
「なんで!」
「予防措置。こうでもしないとあゆむ、泣いちゃうでしょう」
「泣かないし、意味、分からないんだけど」
「あ、そんなこと言っちゃっていいんだ。鏡見る?……って、今は両手塞がってるから、だめか」
 効果的な反論ができないのがもどかしい。哉子の言っていることは勿論正解じゃない。それに哉子から言われるのは誤魔化されているような気がしていやだ。
 ぎゅう、と抱き締める力が強くなる。
「あゆむ」
「なに、よッ」
「よくさ、少女漫画であるじゃない。実は当たり前に隣にいたひとが、一番大切な存在だったって」
「そんなの見たことも聞いたこともないんだけど」
「あたしもそれと同じなのよ」
「無視すんな!」
「あたしはね、あゆむ、あんたに泣かれると、めちゃくちゃ調子狂っちゃうんだから」
 だから隣で見張らせて欲しいんだ、と哉子は言った。見上げた頬に綺麗に塗られたチークとファンデーションの下で、彼女は確かに赤くなっていると気付いたとき、あゆむははっとした。
 隣にくっついているのは、自分だけだ、と思っていた。
 でも。
 もしも。
 もしも哉子もそう思っているのだとしたら。
 あゆむが哉子の隣にいるのを心地よく思っているのと同様に、哉子もまたあゆむの隣にいたいと望んでいるのならば。
 ふたりともが、同じしあわせな一点に立っていると信じられるのではないか――?
「えっ、ばか、あゆむ、あんたなんで泣いて、」
 目尻からあたたかい液体が溢れた瞬間、あゆむの唇からは何故かくすくすと笑いがこぼれ落ちた。先程までは余裕綽々だった哉子が、はたから見ても分かるほどに慌てはじめたのがおかしかったのもある。だけど勿論、あゆむが笑っている理由はそれだけじゃない。涙を拭おうとする哉子の手を引き止めて、あゆむはもう一度彼女の胸元に身体をあずけた。そうして、小刻みにふるえて汗をかいている、ひんやりとした指に自分の指を絡ませた。
作品名:コーンスープのお返し 作家名:しもてぃ