コーンスープのお返し
先ほど「好きです」と言い出すのよりもよほど長い時間をかけてからようやっと彼女はその一言を搾り出した。やんわりとした拒絶がそこには混じっていた。
「なら、いいけど」
「うん。また明日ねあゆむちゃん。ばいばい」
硬直した台詞は、あゆむにもはやなすべきこともなせることもないと告げていたけれど、どうしてかあゆむの心はざわつくのを止めなかった。彼女の歩みがゆっくりとしたものだったならば、あゆむはきっと細い背中を追いかけていたに違いない。しかし彼女は逃げるようにその場から立ち去り、残されたあゆむはやがて、耳に届いた哉子の声にうるさいな、と思った。
うるさいな。
なんであんたは、平然としていられるんだろう。
「さァてと、あたしらもかえろっか、あゆむ」
「………………」
「およ、何拗ねてんの?」
「別に拗ねてないけど」
「あの娘のこと考えてるんなら、無駄だよ。あれはああいう風にしかならなかったんだ。あゆむが責任感じることはないよ」
「………………」
「ね?だからあたしたちも帰ろうよ。あたしおなか空いちゃったなあ。ファミレス寄ってくのもいいかも。今日はあゆむも、予備校なかったよね」
「ひとりで帰って」
「うん?」
「ファミレス、行きたいんならひとりでいけばいいのに」
「……ちょっと待って、あゆむ。あたしは何もしてないわよ」
「いいから!!」
沈黙。
やがて哉子は、これ以上は何を言っても無駄だと判断したものらしい。すんなり立ち上がって、ローファーの軽やかな足音が遠ざかっていくのをあゆむはうずくまったまましばらくぼんやりと聞いていた。そうしてゆっくりと、とぼとぼと家路につきはじめた。
作品名:コーンスープのお返し 作家名:しもてぃ