学園の記憶
「デカイの出してくる。ゆっくりひねり出してくる」
「言わんでいい!」
ドアを閉める前、花村は僕にだけわかるようにウィンクした。
花村……これ狙ってたのか。
里中はクラスを見渡す。
「ああ、もう卒業なんだね」
「ああ、そうだな」
「明日から、三人でだべることもできないんだね」
少しさみしそうに里中は言う。
「な、なあ」
「ね、ねえ」
僕らは同時に何か言おうとした。
言葉と言葉の正面衝突。
僕らはいくらか譲り合った後、里中が先にいうことになった。
「実はね、さっきなんだけど……」
「なんだよ」
「告られた」
思考が停止した。
忘れていたが、里中は意外と隠れファンが多い。
卒業式というタイミングを考えていたのは、僕だけじゃなかった。
「そ、そうなんだ」
「うん」
「それで、なんて……」
「断ってきた!」
胸を張って里中は言った。
「な、なんでさ?」
「私もそうだから」
「へ?」
「私も、告白するから」
「そ、そうなのか!それじゃあ早くしないとそいつ帰っちゃうぜ?こんなところでだべってていいのかよ?」
頭が真っ白になりながら僕はとにかくしゃべった。
戦う前から負けてしまったという事実から目をそむけるために。
「いや。大丈夫」
「大丈夫って……何がだよ」
「もう、見つけたから」
「?」
「もう!鈍い!あんたに告白しに来たってことよ!」
思考停止。10秒ほど、完全に脳がフリーズした。
「卒業したら、大学違うし、今日言うしかないと思った」
「いつから……」
「最初っからよボケ!」
どうやら僕は、とんでもなく鈍かったらしい。
「……それで、答えは? 考えさせてとか言ったらぶっとばすからね」
一呼吸をおいて。僕は覚悟を決めた。
「ったく。こういうのは俺から言いたかったんだけどな」
「?」
「おまえも人のこと言えないくらい鈍いって言ってるんだよ」
数秒の沈黙の後、里中の顔はゆでダコのように赤くなった。
「えっ?ってことは……ええっ!?」
「これからも、よろしくな。里中」
「え、えっと、あぁ、……うん。よろしく。」
「あースッキリしたスッキリした」
廊下から花村のわざとらしい声が聞こえる。
ワンテンポ遅れて、ドアが開く。
「おまえ。実はトイレ行ってなかっただろ?」
「ん?なんのことやら?」
「へ?どういうこと?」
2005年3月15日。僕たちは高校を卒業した。